第113話 新たな生活
春休み中、サクシードとセルシオは留学へ旅立っていった。
セルシオの見送りは本人が家族だけでと決めていたのでアイシスもシャルルも見送りはしなかった。アイシスは出立前日にセルシオと一緒に過ごしてお別れを済ませ、シャルルはその日の夕方コーレル家へやってきたセルシオに挨拶を済ませた。
「セルシオ先輩、どうかお体に気をつけて。いってらっしゃい」
「うん。ありがとう。シャルルも元気で。高等学校、頑張ってね」
「はい」
二人は固く握手を交わした。
サクシードはトムじいさんに別れを告げ、ひっそりと旅立っていった。父はサクシードの新しい住まいまで付き添いに行ったが、シャルルは最後まで顔を合わせることはなかった。自分にも何かできることがあるかもしれないと思いながら、今さら何をどうすればいいのか分からなかった。顔を合わせて言葉を交わすくらいで絆が戻るなら、そもそもサクシードはこんなに早く留学へ行く必要もなかったのだ。胸に棘が刺さったままの別れになった。
そんなシャルルも感傷に浸っている暇はなかった。留学に向けて学び直さなければならないことや習得しなければならないことは山ほどある。すでに自活に向け、屋敷では料理や洗濯、掃除などの修行が始まっていた。フィンラムの語学学習も少しずつ進めている。
春休みはあっという間に過ぎ、シャルルはレオやリリハとともに高等学校生になった。まだみんな新しい友人ができたわけでもないので、しばらくは三人での登校が続く。
「これからもよろしくね」
そう挨拶をし合って高等学校へ向かった。大きく生活が変わる中、今までと変わらない友人の存在には大きな安心感を覚えた。
登校途中、パルともばったり会い、図らずも高等学校の制服をお披露目することとなった。
「わぁ、シャルル。似合ってるね。入学、おめでとう」
と、パルは目を輝かせて言った。あんまり無邪気な眼差しだったので、シャルルはむず痒い気持ちになった。二学年に進級したパルも、少し背が伸びて大人らしくなった。町の子供達の成長を見守ってきたトムじいさんがしょっちゅう感動して時折落涙する気持ちが分かる気がした。
高等学校生活の初日は緊張とともに過ぎていった。
放課後、シャルルは制服姿のままポート街へ向かった。四月になり、日はずいぶんと長くなっていた。
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