第112話 光

 左から右、右から左へと視線を移し、直感に一番触れた色をシャルルは答えた。

「あえて言うなら夕日みたいなオレンジかな。俺、服とか小物とかにそういう色は選ばないんだけど、眺めているとすごく惹かれるし、綺麗な色だなって思うよ」

「あら、素敵ね。では、春休みはこの色をメインに、スウィルビンの夕景でも描こうかしら」

 ダリアはそう言って棚からオレンジ色の絵の具を取り、会計を済ませた。

 二人は画材屋を出てぶらぶらと広場の方へ回り、遊歩道の手摺りに凭れて雄大なユーゼル川を眺めた。あたたかな日差しの下、ダリアの髪は輝いていた。

「そういえばダリア、期末考査はどうだったの? やっぱり首位?」

 シャルルが訊ねると、ダリアは頷いた。

「無事首位で終わることができました。今回は体調を崩すこともありませんでしたし、全力でやり切りました。三学年になっても頑張るつもりです」

「そっか。ダリアはすごいな」

「ですけれども、わたくしも人の優しさを知ってから、もう一人では頑張れなくなりました」

 ダリアはそう言うと手摺りから手を放し、シャルルの方へ体を向けた。

「シャルル、あなたが応援してくださったら、わたくしはもっと頑張れます。……これからも、わたくしを見ていてくださいませんか?」

 シャルルは微笑みを浮かべて頷いた。

「もちろんだよ。ずっと応援してる」

「ありがとうございます。とても心強いです」

 ダリアの瞳には川面の眩しい光が映っていた。シャルルはその艶々と煌めく瞳にじっと見つめられ、時が止まったように視線を交わした。

「――ねぇ、シャルル。私、あなたの笑顔が好きよ。ずっと見ていたいわ」

 やわらかな声が耳に届き、シャルルはそっと頷いた。

「ありがとう。俺も、ダリアの笑顔が好きだよ。見ているとほっとする」

 ダリアは桃色の唇にも色白の頬にも明るい笑みを浮かべた。

「ありがとう。すごく嬉しいわ。――あなたが似合うと言ってくれたから、私は笑うことが好きになりました。本当に、ありがとう」

「うん。ダリアには笑顔が似合ってる。これからも、いっぱい笑ってね」

「はい」

 溢れそうな感動で瞳を潤ませながら、ダリアは頷いた。

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