第23話 すれ違い
母の棺を見送った日は寒かった。二歳下の小さなサクシードが体を冷やさないように、シャルルは肩からケープを掛けてやった。顔をこわばらせて悲しみや寂しさを押し殺す幼いサクシードの姿を今でもありありと思い出せた。たった一人の弟をどうしたら守ってやれるか、そんなことばかり考えていた。
母を失ってから、しばらくは兄弟二人で眠る夜が続いた。不安を訴える弟を抱きしめ、頭を撫でた。
二人で一緒にいられる時はそれで良かったが、一緒にいられない時はサクシードも不安定な気持ちを制御できず、幼稚部の級友に手が出たりした。その度に大人達から諌められ、サクシードは徐々に孤立していった。今思えばその時にもっとサクシードに寄り添っていれば兄弟仲はここまで拗れなかったかもしれない。シャルルもまた大人達と同じように「お友達にそんなことしちゃいけないよ」と叱ったのだった。サクシードは意固地になり、シャルルに対しても心を閉ざしていった。
心が不安定なまま時間だけが過ぎていき、今、こんなことになっている。
「お兄ちゃんにぼくの気持ちなんて分からないよ!」
そう言われたことがシャルルの胸に突き刺さっていた。
「シャル坊や」
トムじいさんに声を掛けられ、シャルルは我に返った。
「この町の子供達はみないい子に育った。私はそう思っている。シャル坊も、あまり一人で抱え込まんようにな」
「うん。ありがとう、トムじいさん」
「ところで、例の貧民街はどうだ? 私も噂は色々と聞くが、直接足を運んだことはないのでな」
トムじいさんの瞳は心なしか冒険心に浮ついているように見えた。もしトムじいさんが同世代の少年だったら、シャルルはこの人を誘って一緒にポート街に行ったかもしれない。
「すごい所だよ。みんな貧民街って言うけれど、あそこにいる人達は何も貧しくなんかないと思う。俺たちなんかよりずっと心の豊かな人達だよ」
トムじいさんは笑った。
「そいつはすごいな。ポート街はリーダーが有能だと聞いた。私もいつかそのリーダーと盃を交わしたいものだ」
本当に盃を交わしたら、トムじいさんとカムリは案外いい心の友になるかもしれない。世代も身分も違うが、二人が意気投合し、笑い合う姿が想像できた。
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