第10話 休息

 アイシスがパルの顔色の悪さに気付いたように、シャルルもすぐにパルの異変に気付いた。シャルルはパルを静かな物陰に連れて行った。

「具合でも悪いのか? 顔色が良くないぞ」

 パルは素直に頷いた。

「何だか……気分が悪くて……」

「無理しないで保健室に行った方がいい。パルの先生には俺から説明しておくから」

「でも……」

 と渋るパルの背中を押し、シャルルは保健室へ向かった。養護教諭に一通り事情を説明すると、シャルルはベッドに横になったパルに小声で言った。

「気分が良くなるまでゆっくり休むといいよ。色々あって気持ちがついていかないんだろう。――知られてまずいことは先生には何も言ってないから安心して。後でまた様子を見に来るよ」

 パルが頷くのを見届けて、シャルルは保健室を出て行った。「待って」と呼び止めたい衝動に駆られたが、本当に呼び止めてしまったらさすがのシャルルも困惑するだろう。窓の外の朝日を眺め、パルは溜め息を吐いた。

 胸の奥底に渦巻くこの心地の悪さは何なのだろう。顔の傷のせいだろうか。それともシャルルの言う通り気持ちがついていかないだけだろうか。

 養護教諭に促されて検温をし、平熱であることを確かめると、気が抜けたのか急に睡魔に襲われ、深い眠りについた。

 養護教諭はパルの疲れを察し、体調の異変に気を付けながらパルを好きなだけ眠らせた。時折シャルルが来てベッドを覗いたが、安らかな寝息を立てるパルの姿を見て去っていった。

 食事だけは摂らせなければならないので昼食時に一度起こしたが、顔色はずいぶん良くなった。食事も問題なく摂れた。

 そのタイミングでもう一度シャルルが顔を出し、朝より元気になったパルの姿にほっとした表情を浮かべた。

 シャルルはベッド脇の椅子に座り、パルに言った。

「パル、帰りは俺が送っていくからここで待ってて。ちょっと渡したいものもあるんだ」

 渡したいものとは何だろうか。シャルルに言われるまま、パルは頷いた。

 一日何も考えずに安全な場所で休んだお陰か、下校の時間には体も楽になっていた。

 約束通りシャルルが帰り支度を整えて保健室に来た。パルは一日お世話になった養護教諭に深々と頭を下げて礼を言い、シャルルと共に帰路に就いた。

 外はすっかり赤く染まり、二人の影が長く伸びた。

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