第11話 夕暮れ語らい

「寄りたい所があるんだけど、体は大丈夫か?」

「うん、平気だよ」

 パルはシャルルに連れられて、町の北西に広がる草むらに来た。この草むらの奥には背の高い煉瓦壁があって、その向こうは荒れ果てた貧民街に続いている。

「足元に気を付けて。こっちだよ」

 シャルルは草むらには入らず、草むらに沿って東西に伸びる土道を西に向かい、細い川に出た。川の向こうは個人の畑や空き地が広がり、その中にサクレット家の運営する工場群が立ち並んでいる。工場の灯りが夕日に溶けて白々と煌めいていた。

 涼しい風が吹き、空き地の雑草が繊細な影を落として揺れた。

 川辺には大小様々な石が転がっている。二人は座りやすい石を探し、並んで腰を下ろした。捻れながら流れていく川の水音が耳を癒やした。

 シャルルには度々助けられてきたが、こうして落ち着いて話をするのは初めてかもしれない。そう思うと、パルは急に緊張した。こんな風に誰かとじっくり話をする経験などほとんどない。どんな顔をしたらいいのか分からず、じっと川面を見た。

 シャルルはそんなパルの横顔をちらりと窺いながら言った。

「パル、昨日アイシスに会ったんだって?」

「どうしてそれを知ってるの?」

 パルは驚いてシャルル見た。

「アイシスから聞いたんだよ。パルが保健室で休んでる間、俺の所に来たから」

 アイシスはパルのことを心配して、彼と仲のいいシャルルに事情を訊ねに行ったのだった。

「それで、アイシスからこれを預かったんだよ」

 シャルルは通学鞄から一つの小包を出した。それは、昨日アイシスがパルに渡そうとしたものだった。

「あ、それは……」

「菓子職人のお母さんと一緒に作ったクッキーらしい。嫌いじゃなければ受け取ってやれよ。ずっとパルのこと気にしてたから」

「う、うん……」

 パルはおずおずと手を出し、小包を受け取った。

 シャルルは昨日のことをどこまでアイシスから聞いたのだろう。金曜日のいざこざのショックの中、ガーゼを貼った顔をアイシスに見られたこと。彼女が懇意にしているセルシオの姿を見て激しく動揺したこと。

 シャルルには、アイシスに対する言葉にしがたい複雑な感情も、全て見透かされているような気がした。

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