第35話 不器用な介抱

 レオやリリハと別れた後、シャルルはサクレット邸へ向かった。直近ではトムじいさんの見舞いのためにこの屋敷を訪ねたが、それまではシャルルもサクレット邸には用がなく、滅多に訪ねることはなかった。

 サクレット邸の門先で門番に事情を話すと玄関まで案内し、メイドに取り次いでくれた。シャルルを出迎えたメイドは明らかに戸惑った顔をして、

「ダリア様はお加減を悪くされていて……。少々お待ち下さい」

 と言った。シャルルの胸にも嫌な予感が過った。無理にダリアを呼ばなくてもいいと伝えたかったが、メイドはすでにダリアの部屋に行ってしまった。

 やがて二階の自室からダリアが下りてきた。メイドの説明通りあまり具合がよくないようで、足取りも重く、顔色も悪かった。息も荒い。

「お待たせいたしました。わたくしに用があるなんて珍しいですわね」

 いつも通り強気な口調ながら、目はどことなく虚ろだった。シャルルは女子生徒から託されたノートを出した。

「これ、君のクラスの子から預かってきた。早く返したかったようだから」

「……このために来て下さったの? どうもありがとう……」

 ダリアはふらつきながらノートを受け取った。

「体調が悪いと聞いたけど、大丈夫?」

 そう訊ねた時だった。ダリアは受け取ったノートをぽとりと落とし、膝から崩れ落ちた。シャルルは慌てて彼女の肩を支えた。

「大丈夫?」

 ダリアは顔を歪めて苦しそうに呻いた。

 咄嗟に辺りを見渡したものの、手を貸してくれそうな人は誰もいない。

「ダリア、ごめんね。ちょっと抱え上げるよ」

 シャルルはなるべく衝撃を与えないようにそっとダリアの膝裏と背中を抱え、ぐっと立ち上がった。人を抱えて立ち上がろうと思うと、シャルルの細身の体格ではそこそこ勢いを付けなければならず、その衝撃が伝わったのか、ダリアはうっと呻いた。

「ごめん」

 と言って、シャルルは給仕室を目指した。幼い頃、自分の家同然に走り回った屋敷なので、どこにどの部屋があるのかは熟知していた。

 給仕室のメイドに先導を頼み、ダリアの部屋に向かう。

 彼女はシャルルの胸元で荒い息を繰り返していた。

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