第36話 シャルルとサクレット夫人
メイドに案内され、ダリアをベッドに寝かせると、騒ぎを聞きつけたダリアの母が顔を出した。サクレット夫人はシャルルの顔を見ると、「まぁ」と声を上げた。
「シャルル君じゃないの。ずいぶん久し振りね。この間はお祖父様のお見舞いをどうもありがとう。シャルル君に会えてすごく喜んでいたのよ」
自己と他人の境界を不思議と溶かしてしまう独特の愛嬌を持つサクレット夫人にそう挨拶され、シャルルは内心どう対応すべきか戸惑いながら頭を下げた。ぼやぼやしていると夫人のペースに巻き込まれてしまうことをシャルルも分かっていた。
「お久し振りです。僕もお見舞いができてよかったです。今日はダリアさんに用事があって来たんですが、お加減の悪い中僕が呼び出してしまったので倒れてしまって。無茶をさせてごめんなさい」
サクレット夫人は頬に手を当て、「まぁ」と言った。
「あれほど無理をしないよう言っておいたのに、やっぱり無理をしてしまったのね。今日は朝から微熱があったから学校を休ませたのよ。でも、試験前だからきっと根を詰めて机に向かってしまったのね。もっと注意して見ておくべきだったわ。迷惑を掛けてごめんなさいね。ところで、お父様はお元気? いつもお世話になって――」
と、夫人のお喋りが止まらなくなった所で折好くセルシオが顔を出した。
「お母様、何かあったのですか?」
そう訊ねながら、セルシオは母の前に困惑顔のシャルルが立っているのを見つけ、すぐに状況を察してくれた。
「シャルル、いらっしゃい」
と声を掛けながらさり気なく夫人とシャルルの間に割って入り、「後は私に任せて下さい。シャルルは私の友人ですから」と言って、メイドと共に夫人を退室させた。
セルシオの前であることも忘れて、シャルルは安堵の息を吐いた。セルシオは笑った。
「ごめんね、シャルル。母の悪い癖が出てしまったみたいだ」
「……いいえ、大丈夫です。それよりも、ダリアさんが――」
シャルルは事の顛末を説明した。セルシオも無茶をしがちなダリアのことは心配していたようで、ベッドに眠るダリアを見て顔を顰めた。
「母の言う通り、無理をしてしまったんだろうね。試験前は大抵こんな感じだから」
シャルルも苦しそうに息を繰り返すダリアを、じっと見つめた。
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