第37話 弱さと闘志

 やがてメイドが戻ってきて、検温をしたりダリアの額に氷を当てたりした。朝方微熱だったというが、今はみんなが顔を顰めるほど高熱だった。すぐに熱冷ましの薬を飲ませ、休ませる。

 メイドが退室した後、ダリアは薄目でセルシオを見た。

「お兄様、わたくし、まだやらなければならないことがあるんです」

「その熱じゃ無理だよ。やらなきゃいけないことって何?」

「机の上に置いてあるんですけれども……。学力コンテストの過去問題集を見直したくて……」

 ダリアに言われてセルシオは机を見た。学力コンテストの過去問題集とノートが広げてある。過去二年間の問題が配られたが、そのうち去年の問題はダリアも解いたはずなので、重点的に見直しているのは一昨年のものらしかった。ダリア独自の解説がノートに書き込まれている。

「上手に纏められているね。一昨年の問題なら私も解いた。ダリアのように上手くは纏められないけれど、手助けくらいはできそうだ」

 一昨年の問題を解いたのはシャルルも同じだった。

「よければ僕も手伝います。手分けした方がいいでしょう」

「シャルルが手伝ってくれるなら嬉しいけど、自分の勉強はいいの?」

「僕も今回コンテストを受けますから、十分いい勉強になります」

「そうだね。それなら、少しだけ手を貸してもらおうかな」

 二人が話し終えると、ダリアはうわ言のように言った。

「わたくしは、お兄様の後を追いたいのです……。サクレット家の娘として、恥ずかしくない成績を残したい。一番になりたいのです……。でもわたくしは、お兄様のように優秀ではありませんから、時間を掛けて努力するしかないのです……」

 シャルルとセルシオは顔を見合わせた。何と言葉を掛けたらいいのか分からない。

「ダリア、今はとにかく熱を下げるのが最優先だよ。それ以外のことは考えなくていい。悪いようにはしないから、ゆっくり休んで」

 セルシオがそう声を掛けたが、ダリアは口元を引き締めて顔を逸らし、微かな声で呟いた。

「くやしい」

 きっと誰にも聞こえないように呟きたかったのだろうが、ダリアの声はシャルルの耳にもセルシオの耳にも届いた。二人はダリアの後ろ姿をじっと見つめた。

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