第38話 シャルルとセルシオ
二人はセルシオの部屋に移動し、作業を始めた。ダリアは解熱剤が効いたらしく、穏やかな寝息を立てていた。サクレット夫人がダリアの看病を引き受けてくれたので、無理をして起き上がることもないだろう。
ダリアのノートの纏め方はシャルルやセルシオにもいい勉強になった。なるべくダリアの書き方に沿って過去問題集の解説や要点を纏めていく。過去に解いた問題でありながら、今見直すと解き方に迷うものもあった。セルシオに解き方を訊ねると、ペンを走らせながら分かりやすく教えてくれた。
「私とダリアは試験結果が出ると父にそれを報告するんだけど、本人も学生時代首位を取るのが当たり前だったから私達にもそういう結果を求めるんだ。ダリアも知らず知らずプレッシャーを感じて苦しかっただろうな」
親から過剰な期待をされれば無茶もしたくなるのだろう。一人で自分を追い込もうとするダリアの気持ちはシャルルにもよく分かった。
作業をしているうちに興に乗り、シャルルも席を離れ難かったので、サクレット家の執事がコーレル家へ向かい、事情を説明した上で外泊を許可してもらった。今夜は一晩、作業に没頭できる。
二人で順調にノートを纏めているさなか、セルシオはふと手を止めて呟いた。
「ダリアが試験前に根を詰めるのはいつものことだけれど、熱まで出すなんてどうしたんだろうね。以前は分からないことがあったらすぐに私に訊きに来てくれたのに、最近はそういうこともなくなったし。……もう私に頼るのは嫌になったのかな」
セルシオは寂しそうに笑った。ダリアがセルシオのことをそんな風に思うとは到底考えられないが、シャルルにもダリアの本心は分からなかった。
「それにしても、シャルルとこんなふうに肩を並べて一つのことに取り組むなんて、こんなこと滅多にないよね。将来、シャルルがこの町に残るなら、またこんな機会もあるのかもしれないけれど」
セルシオの言う通り、サクレット家とコーレル家はビジネスパートナーとして深い関係を築いている。将来家業を継ぐことがあれば、セルシオと仕事をする可能性もあるのだ。
ポート街で帽子の男に将来のことを訊かれた時は思わず反抗的な返事をしたが、セルシオと一緒に仕事ができるなら、それも興味深いことだと思った。
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