3 春風

第110話 写真撮影

 卒業式の数日後、シャルルは高等学校の制服を着て、父や使用人とともに写真館に向かった。

 写真撮影というだけで緊張するが、それを父が見守るのだと思うと余計に緊張した。

 使用人は写真館の人達を手伝って、シャルルの服装を細かいところまで直した。

「坊ちゃん、あと一ミリだけ上を向いてください。それから、もう少し凛々しいお顔をなさってください」

 使用人が色々と指示を出す中、シャルルは頭が真っ白で、自分がどんな立ち姿をするべきなのか分からなかった。まるで人形にでもなったように、使用人のなすがままだった。父はそんな息子を遠くから見守っていた。

 やがて使用人がシャルルのそばを離れ、不思議な沈黙の中、何度かシャッターが切られた。

 最初から最後まで、頭が真っ白のまま撮影は終わった。

 シャルル達はその足でサクレット邸に向かった。高等学校の制服を着たシャルルの姿をぜひ見たいとトムじいさんが言うので、写真撮影の後、親子で挨拶に行くと約束したのだった。

 トムじいさんはシャルルを見ると目を輝かせた。

「おお、シャル坊……立派になったな。よく似合っておる」

 そう言って何度も頷いた。

「サクシードもそのうち向こうの制服を着て写真を撮りますから、現像が終わったら写真をお持ちします」

 父が言うと、トムじいさんは頷いた。

「ありがとう。サク坊とは週に一度会っておったから、やはり離れるのは寂しくてな。写真があると嬉しいよ」

 トムじいさんはサクシードの留学先の制服姿も楽しみにしているらしかった。

「シャル坊や、君の制服姿の写真もこの部屋に飾りたいんだが、私にも写真を分けてくれんかね」

 トムじいさんはシャルルに言った。

「それは構わないけど、俺はまだ留学には行かないし、制服姿なんて毎日見られるよね」

「確かに君の制服姿は当分見せてもらえる。だけれどね、十五歳の君の姿は、今しか見られないものなのだよ。子供はすぐに成長するからね」

 トムじいさんにそう言われ、シャルルも頷いた。

「……そうだね。十五歳って、今だけだもんね」

 写真ができたら必ず渡しに行くと、シャルルは約束した。

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