第32話 違い
ゆっくり話をしてみたかったのはシャルルも同じだった。トムじいさんもカムリと盃を交わしたいと言っていたから、このことを知ったら興味を持つだろう。こうして隣に並ぶと二回りは違う体格差をありありと感じた。
普段は酒を飲むようだが、カムリも今日はシャルルに合わせて水を啜った。
「お前のことはいつも家の窓から見ていた。今年に入ってからか? よく来るようになったのは」
そう訊ねられ、シャルルは頷いた。
「ポート街に招かれざる客が来るのは日常茶飯事だが、高等住居区の住人が来るのは俺の知る限り初めてだ。珍しいこともあるもんだと思ったよ」
「一人で落ち着ける場所を探している時にたまたま煉瓦壁の隠し木戸を見つけたんだよ。前々からポート街の噂は聞いていたし、どんな所なのか知りたくて中に入ったんだ。夕日が眩しくてびっくりした」
カムリは面白そうに笑った。
「大人しそうな見た目なのに案外やんちゃなんだな。さっきの介入も見事だったぜ」
「体が勝手に動いただけだよ」
「根っからの正義漢なんだな」
柔和な声色でそう言うカムリを見ると、きっと自分の人柄を好意的に評価してくれてるんだろうなと思ったが、シャルルはそうしたものに今一慣れなかった。弱い所や醜い所を見てもらった方がまだましかもしれない。シャルルはカムリの言葉には反応せず、話を変えた。
「ところでカムリ、あの人が売っていたのは林檎の詩だよね。俺も欲しい」
「何だ、持ってなかったのか」
「読ませてもらったことはあるんだけど、買ってはいないんだ。あの詩売りの人も俺に声を掛けてくれればよかったのにね」
「全くだ」
カムリは笑いながら上着のポケットから紙を出した。
「これでよければ持っていけ」
「ありがとう。百テールでいいの?」
「殊勝だな。ちゃんと払ってくれるのか?」
シャルルは苦笑いをしながら硬貨を出した。カムリも素直に受け取った。
「お前達は兄と弟でずいぶん違うんだな」
「色々あったからね」
「まぁ、肉親なんてそんなもんだよな」
カムリは酒を呷るようにグラスの水を呷った。
カムリと自分とでは、きっと生きてきた時間も倍は違うんだろう。カムリの逞しい喉が動くのを見ながら、シャルルもグラスの水を飲んだ。
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