第31話 シャルルとカムリ

 二人でしゃがんで話している時だった。詩売りの男の背後からもう一人、不穏な影を落としながら巨体の男が現れた。彼は服の上からでも分かる逞しい腕を馴れ馴れしく詩売りの男の肩に回した。「ひゃっ!」と、詩売りの男は素っ頓狂な声を上げた。

「おいおい。せっかく助けてもらったのに何て言い草だ。もっとちゃんと礼を言え」

 今度はシャルルが驚愕してあっと声を上げた。

 現れたのはポート街の英雄詩人・カムリ本人だった。近くで見ると筋肉質の体がより一層鋼のように強く感じた。

 カムリはシャルルを見ると歯を見せてにっと笑った。

「悪かったな、兄ちゃん。こいつを助けてくれてありがとよ」

 ポート街の詩売りというからこの男もカムリの庇護の下にあるんだろう。サクシードに突き飛ばされた弾みで男の被っていたハンチング帽は地面に落ちていた。カムリはそれを拾って彼の頭に乗せながらシャルルに訊ねた。

「こいつを突き飛ばした奴はお前の友達か何かか?」

 シャルルは首を横に振った。

「謝らなきゃいけないのは俺の方だよ。あいつは俺の弟なんだ。迷惑かけてごめん」

 カムリは気を悪くした風でもなく明るく笑った。

「なに、いいってことよ。こいつには口酸っぱく客を選べと言い聞かせてあったんだが、度々こういうことをやらかすんだ。騒ぎを起こして悪かったな」

 カムリは詩売りの男に言った。

「お前は先に帰って食事の支度を手伝え。俺も後で行く」

 カムリに命じられ、詩売りの男は大人しく頷いて去っていった。

 二人きりになった所でカムリは改めてシャルルを見た。

「こんな所で坊やに会えるとは思わなかった。お前とは一度ゆっくり話をしてみたいと思ってたんだ」

「俺はシャルルだよ。そう呼んでくれると嬉しい」

 カムリは笑って頷いた。笑顔の似合う人だなとシャルルは思った。ポート街で英雄詩人と呼ばれ、みんなから頼りにされる理由がよく分かった。

「シャルル、時間はあるか? 少し付き合え」

 カムリにそう言われ、シャルルは頷いた。

 広場にはカムリの馴染みの露店があるらしく、シャルルはその店に連れて行かれた。

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