第30話 シャルルと詩売り
放課後、シャルルは級友のレオやリリハと一緒に商業区で買い物をした後、一人で帰路に就いた。広場を回り、ユーゼル川の向こうに見えるラッフルの夜景を眺めて高等住居区へ帰ろうとした時、広場の入り口近くで思いがけずサクシードの姿を見つけた。シャルルは驚きのあまり足を止め、しばらく離れた場所からサクシードを見ていた。
その時、一人の男がサクシードに絡んでいった。この男が来なければ、シャルルはその場を離れ、別の道から家に帰っただろう。
シャルルの目の前で二人は険悪な雰囲気になっていった。何があったのかは分からないが、突然サクシードが男を突き飛ばした。それを見た瞬間、シャルルの体は自然と動いていた。二人の間に割って入り、男を庇う。
サクシードは驚いた顔をしてこちらを見た。平静でなかったのはシャルルも同じだった。こうしてサクシードの顔を見るのはどれくらいぶりだろう。昔の面影を残しながら鋭い顔付きになっている。思わず「サクシード」と名前を叫んだが、本人に名前で呼びかけることなど、この先もう二度とないかもしれない。
『これ以上、暴力を振るうな』
『人を殴りたいなら俺を殴れ』
色々な言葉が頭に浮かんだが、何一つ声にならず、無言でサクシードを見据えた。
サクシードもしばらくシャルルを見ていたが、やがて身を翻して広場から去っていった。
全身から力が抜けるのを感じ、深い溜め息が漏れた。
シャルルは背後で倒れている男を見た。
「大丈夫ですか? 怪我はない?」
男の前にしゃがんで手を差し出すと、男はシャルルの手を掴みながら背筋を伸ばして座り直した。
「ああ、助けてくれてありがとよ――って、お前は……」
男は驚愕の表情を浮かべてシャルルを指差した。
「よくポート街に来る高等民の制服坊っちゃんじゃないか。何でこんな所に? どうして俺を助けた?」
シャルルは首を傾げた。
「あなたは誰? どこかで俺と会った?」
そう訊ねると、男は答えた。
「俺はポート街の詩売りだ。カムリの詩を売ってんだよ。ポート街に住んでる奴ならみんなお前のこと知ってる。噂になってるからな」
その噂で使われている渾名が高等民の制服坊っちゃんなのかと、シャルルは複雑な気持ちになった。
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