3 届け物
第33話 家族
試験本番まであと一週間。試験範囲も発表され、本格的な試験期間に入った。ダリアは試験範囲を見ながらノートのまとめをしていた。罫線の引かれたノートに大事なことを書き、自分で選んだ色で彩色をしていく。元々絵を描くことが好きな性分だけあって、ノートを自分好みに彩っていけるのは癒やしの時間だった。文字や図形の配置、色使いに満足し、ダリアは一人頷いた。
兄のセルシオは昨日アイシスを招いて試験前最後の勉強会を開いていた。この屋敷でアイシスと顔を合わせたことは一度もないが、昨日はたまたま鉢合わせ、簡単な挨拶を交わした。
「いらっしゃいませ、アイシスさん」
「こんにちは、ダリアさん。お邪魔いたします」
そう言って二人で会釈をした。町で評判の菓子店の娘で接客の手伝いもするからか、アイシスは普段接する級友達よりも精神が落ち着いていて上品な所作も違和感なく熟した。兄や母や使用人が彼女を厭わず屋敷に歓迎する理由がダリアにも分かった。
アイシスに落ち度はない。だが、ダリアの胸には少なからず兄を取られる嫉妬心や焦りがあった。そんな醜い感情は捨ててしまいたいと、何度も思い詰めた。
書き上げたノートをぼんやり眺めていると、兄のセルシオがノックをして部屋を覗いた。
「ダリア、お母様がココアを入れてくれるというからおいで。私も今から休憩に行くんだ。ぐずぐずしているとお母様が直々に呼びに来てしまうから早くおいで」
兄は笑った。マイペースで何事にも動じない母は家族にとって時折面倒な存在になった。
兄と一緒に居間に下りると、母はココアを準備して待っていた。
「二人共、さぁ、座って。休んでいきなさい」
母は二人をソファーに座らせた。適度に力を抜けるセルシオはともかく、妹のダリアは物事を一人で抱え込んで苦しむことがあるので、母もそれとなく注意して見ているのだった。
母はダリアの肩に肩掛けを掛けた。
「ダリちゃん、冷えるからこれを持っていきなさい。夜更かしも程々にしてちょうだいね。体を大事にするのよ」
「……はい、お母様。気を付けます」
ダリアはそう返事をしてココアに口を付けた。
口で注意するだけでは飽き足りなかったのか、ダリアが席を離れるまで、母はダリアに寄り添い、ずっと背中をさすり続けていた。
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