第73話 帰郷
パルの出立の日、シャルルは寮までパルを迎えに行った。パルは旅支度を整え、大きなトランクや鞄を持っていた。
「シャルル、来てくれてありがとう」
朝の冷たい空気の中でパルは白い息を吐きながら礼を言った。
「荷物、一つ持つよ」
「え、でも、悪いよ」
「いいよ」
シャルルはパルの荷物を一つ引き受けた。
「パル、頭の傷は大丈夫?」
「うん。もうよくなったよ。ありがとう」
傷を受けた所にはもうガーゼも貼っていなかった。
二人は早朝の静かな路地を歩き、町の北西へ向かった。スウィルビンの最寄り駅は町の外の工場街にある。ちょうどポート街の向こう側に当たる場所で、日々労働者が行き来する。工場街も今日から年末年始の休暇に入ったらしいので、駅には誰もいなかった。小さな駅舎の待合室にストーブが灯っている。その火に当たりながら、シャルルは昨日アイシスの店で買った菓子の包みを出した。
「パル、よかったらこれ食べて」
パルは目を輝かせた。
「わぁ、ありがとう。……もしかして、アイシスのお店の?」
「そう。やっぱりパルには分かるんだな」
「アイシスのお店のお菓子は何度か貰ったことがあるから」
パルはそう言って包みを眺めた。
「アイシスにも、たくさん助けられてきた。でも、これからは僕も……助けていけるようになりたいな。強く、なりたいよ」
それは、いつだったかポート街のそばの川辺で語り合った時に聞いた言葉だった。もうその強さはパルの瞳の中に宿っているように見えた。
汽車の来る時間になり、二人はプラットホームに移った。線路の向こうを見ると、遠くにゆらゆらと汽車の影が見えた。
パルはシャルルに預けていた荷物を引き取った。
「シャルル、本当にありがとう。来てくれて嬉しかった」
「うん。道中気を付けて。しばらく会えないと思うと寂しいよ」
パルは照れ隠しのように笑った。
「三学期にまた会おうね」
「楽しみにしてる。俺もいつか、パルの故郷に行ってみたいな」
パルは嬉しそうに笑った。
プラットホームに汽車が止まり、パルは客車に乗り込んだ。
ゆっくり走り出す汽車の窓越しに、二人は手を振り合った。
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