第87話 通学

 月曜日には体調も戻り、シャルルは久し振りに制服に袖を通した。

「シャルル様、今日は昼過ぎから雨が降る予報なので、傘を持ってお出掛けください」

「うん、分かった。ありがとう」

 使用人とそんな会話を交わしたのに、出掛ける時にはすっかり忘れてしまい、シャルルは傘を持たないまま屋敷を出た。

 空は晴れ渡っていた。雲一つない空は天国に届きそうなほど高かった。マフラーに顎を埋めながらシャルルは歩いた。

 学園区の入り口で再会したレオとリリハはシャルルの元気そうな姿を見ると喜んだ。

「シャルル、もう元気になったの? 大変だったわね」

「シャルル、やっと来てくれたか。一人でリリハの相手をするの大変だったんだ。ああ、よかった」

 リリハはそっとレオを睨んだ。シャルルは笑いながら言った。

「二人共、ありがとう。もうすっかりいいよ。お礼が遅れたけれど、荷物も届けてくれてありがとう」

「お礼なんていいのよ」

「そうだよ、急に学校休んで心配だったしな」

 二人の言葉を聞くとシャルルは安堵した。

「ところでシャルル、傘は持って来なかったの? 昼から雨の予報よ」

 リリハとレオが傘を持っているのを見て、シャルルはやっと傘を忘れたことに気が付いた。

「そういえば、そんな予報が出てたらしいね。ちゃんと傘を持っていくように言われたのに、忘れてきちゃったよ」

「放課後まで降らないといいけど……。今日は私もレオも用事があって一緒に帰れないから」

 リリハは空を見ながら言った。

「大丈夫だよ。何とかなるから」

 シャルルは笑った。

 天気予報というものは当てにならない時はとことん当てにならない。それなのに、妙なところでぴたりと当たる。

 雲一つなかった青空には時間と共に雲が湧き、だんだん暗くなっていった。それでも長い間雨は降らず、放課後になっても分厚い雲が垂れ込めるだけだった。

「シャルル、早く帰った方がいいわよ。降りそうだから」

 リリハにそう言われ、シャルルは頷いた。運がよければ無事濡れずに帰れるかもしれない。そう思いながら校門を出て帰路に就いた。

 たが、雲の流れは早く、ほどなくしてシャルルは雨に降られた。

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