第1章 中等学校生達

1 シャルルとポート街

第1話 ポート街

 学園都市・スウィルビンの町は夕日に照らされ赤く染まった。静かで美しいこの町の北西には、貧しい人々が集まって暮らす貧民街があった。中等学校生のシャルルは学校が終わると帰り道を逸れ、貧民街へ向かった。町と貧民街は高い煉瓦壁で隔てられ、その煉瓦壁の前には草むらが広がっていた。

 制服が汚れるのも構わないで草むらに分け入り、頬に掛かるほど背高く伸びた雑草の中を泳ぐように進み、煉瓦壁を目指す。傍目には分からないが、煉瓦壁の片隅に小さな隠し木戸があり、そこから貧民街へ入れる。

 煉瓦壁まで辿り着くと身を屈め、上部二箇所を蝶番で固定された腰丈の隠し木戸を押し上げ、砂埃の舞う貧民街・ポート街へ足を踏み入れた。

 錆びた夕日が真向かいから目を打った。秋の柔らかい風が吹き抜ける。幅広い道が真っ直ぐ奥へと伸びていた。右手側には崩れ掛けの廃屋が並び、左手側には今しがたくぐってきた高い煉瓦壁が延々と続いていた。夕日に向かって真っ直ぐ伸びるこの一本の大通り以外、ポート街に道はない。

 ポート街の住人はみんな廃屋にいるらしく、通りは無人だった。

 自分の足音を聞きながら奥へ進む。

 この大通りの一番奥に、会いたい人がいた。スラックスのポケットには以前買った詩が入っている。詩が書かれたその紙片を握り、逸る気持ちを抑え切れずに早足に歩いた。

 彼女はポート街最奥の廃屋に人知れず暮らし、いつも家の前の枯れ木の側に木箱を置き、そこに座って虚空を見つめていた。

 たまたま彼女の存在に気付き、詩を買ったことがきっかけで親交を持つようになった。

 頭の中で彼女の書いた詩を思い出す。



青い空を見ていたら

いつしか冷たい風が吹き

赤い夕日が射してきた


オレンジ色の渦の雲

桃色の遠い光

東の空の群青色

全部知っている


一番星が白く光って

明日への扉はこっちだと

道案内している


そうして夜を越え

朝が来ると

朝日が綺麗だと

人々は心を動かす

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