第95話 生意気と意地悪

「ところでシャルル、お前、あの帽子の兄ちゃんに会ったか?」

「ううん。会ってない」

 カムリは女詩人の住んでいた家に視線をやった。

「今は彼女が暮らしてたあの家に寝泊まりしてるんだ。あの子の私物を色々整理してくれてる。お前にも会いたがってたから、行ってやれよ。色々話したいこともあるみたいだしな。――しかし、あの女の子は詩人だったらしいな。俺も一度あの子の作品を読んでみたいよ」

「俺が持っている作品でよければ、今度見せてあげるよ」

 カムリは笑った。

「それは嬉しいが、誰にも見せたくない宝物なんじゃないか?」

「うん。見せたくないものもある。でも、あの人の書いたもの、カムリにも読んでもらいたい」

「それはありがとよ。楽しみにしてる」

 シャルルは頷いて、女詩人の住まいになっていた廃屋へ向かった。二、三度ノックをすると、帽子の男がドアを開けて出てきた。

「――お前か」

「久し振り、お兄さん」

 帽子の男は頷くと、シャルルを中に入れた。この廃屋へ入るのは二度目だが、中の様子は一度目に入った時とさして変わらないような気がした。

 帽子の男は部屋に置かれていた椅子にシャルルを座らせ、自分は部屋の奥のベッドに腰掛けた。そこは、息を引き取った女詩人が寝かされていた場所だった。

「ずいぶん久し振りだな」

 低く冷ややかな彼の声をどこか懐かしく感じながら、シャルルは頷いた。

「うん。なかなか来る勇気が出なくて」

「お前に頼まれた通り、あの膝掛けは棺に入れた」

「ありがとう。約束、守ってくれたんだね」

「破る理由もないからな」

「お兄さんは俺のこと、嫌な子供だってきっと思ってたよね。俺、生意気な口ばっかり利いてたし」

 帽子の男は薄い唇に笑みを浮かべた。

「なんだ、そういう自覚あったのか」

「うん。あった」

「お前を試すようなことを問いかけてきたのも事実だが、別に俺はお前のことが嫌いだったわけじゃない。なかなか興味深い問答で面白かった」

 今度はシャルルが笑った。意地の悪いことも色々と言われたなと思いながら、彼との今までの会話を思い返した。

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