第106話 思い出の川辺
二月下旬、二日間に渡って行われた卒業試験は無事に終わった。
試験が落ち着いたら一緒に散歩に行こうとパルと約束していたので、シャルルは卒業試験が終わった翌日の土曜日、パルと散歩に出掛けた。
ゆっくり広場を散歩した後、町の北西に広がる草原に向かい、その奥に流れる細い川に出た。そこは、パルが精神的につらかった時、シャルルと語り合った川辺だった。散歩に行くのならどうしてもここに行きたいというパルのリクエストだった。川の向こうには工場群が見える。二人は水の音を聞きながら、川辺の大きな石に並んで腰掛けた。
「シャルル、もう高等学校の制服は着てみた?」
と、パルが訊ねた。
「まだ。来週、制服合わせに行くんだ」
「僕もシャルルの制服姿見てみたい」
「四月になったら嫌でも見られるよ。毎日着るんだから」
と、シャルルは笑った。通う校舎は変わっても、中等学校と高等学校は近くにあって、登下校の時間もよく似ている。会おうと思えば毎日会うことだってできるのだった。
「パルも中等学校を卒業したら高等学校に進学するんだろ?」
今度はシャルルがパルに訊ねた。
「うん。通えたらいいなって思ってる。高等学校に進学したら学生労働枠で短時間仕事もできるようになるって聞いたから、お金はどうにかなりそうかなと思って」
「奨学生として進学したら学生労働は許可が下りないかもしれないな。奨学生は学業優先だから」
「……うん。ちょっとだけでも働かせてもらえたら嬉しいんだけどな」
「パルも高等学校の制服、よく似合うと思うよ」
「そうかな? あんまり自信ないけどな」
と、パルは照れ笑いをした。
「シャルルはどれくらい留学に行くの? 結構長い?」
「二年くらい行こうと思ってる。大抵みんなそれくらいは行くから」
「そんなに長いんだ。……寂しいな」
「長期休暇には帰ってくるよ。二年間、ずっと離れてるわけじゃない。それに、行くのはまだまだ先だよ。準備に時間が掛かるから」
「そっか。でも、いずれ行っちゃうんだから、やっぱり寂しいな。……こっちに帰ってきたら、また散歩に付き合ってくれる?」
「いいよ。俺も楽しみにしてる」
シャルルがそう返事をすると、パルは安心したように笑った。
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