神々との絆(2)

「せ、世界の崩壊……?! そんな大げさな”」


「トート様、これは決して大げさではありません。我々が獣人の問題を抱えているように、他の種族も問題を抱えているのです」


「そんなに深刻なんですか?」


「ウム。エルフは海賊に悩まされ、ドワーフもゴブリンと争っていると聞く。そして、その背後には背教者たちがいるらしい」


(あれ、さっきの話だと、エルフたちは独自の神を持ってるんだよな? 女神教を信じてるわけじゃないのに、なんで手を出すんだ?)


「コニーさん、他の種族はもともと女神教を信じてるわけじゃないんですよね? なんで異種族にまでちょっかいを出すんですか?」


「背教者はいにしえの者が真なる神であり、それ以外の神はすべて紛い物。そのように考えているようです。異種族の神も例外ではありません」


「なっ……!」


(レネゲイドは女神教をやっつけるのだけが目的じゃないのか。自分たちが信じている神様の教えを広げることを目指しているのか。)


「ウム。問題はそれだけではない。背教者は獣人やゴブリンといった堕落した種族に言葉たくみにとりいっているのだ」


(あいつ、そんなことまでしてるのか)


「獣人があのような大規模な軍勢を率いることはこれまでになかった。本来、獣人とは砂のようにまとまりがないものだ。」


「ケンカするってことですか?」


「ウム。群れの長を決めるため、獣人はひんぱんに決闘をする。強いものが群れを率いるという掟があるために、同士討ちするのが普通なのだ。」


「そうか……でも背教者がリーダーの後ろ盾となって支えれば、勢力を安定して伸ばし続けられる。それで大きくなったということですね?」


「トート殿の言う通りだ。おそらくそうだろう」


(なるほど、今の状況が大体見えてきたぞ……。昔に比べて女神教が弱体化して、女神に味方した種族はバラバラになっている。それで『背教者』は、敵対している種族をまとめて、自分の教えを広める手伝いをさせているってことか。このままだとバラバラになってる人間やエルフは各個撃破される。そうなると不味いな)


「古代ベンデル帝国が崩壊したことで世界はバラバラになった。その混乱は今も続き背教者の暗躍を助けているのでしょう」


「ウム。しかし女神教を唯一とすれば、また同じことになるだろう……」


「閣下のおっしゃる通りですわ。こうなってしまったのは古代ベンデル帝国の――いえ、人間のせいなのですから」


「ウム。いまさら『この危機を乗り越えるため、手を取りあうべきだ』といっても、その言葉は彼らの心には届くまい。ただうつろに響くだけだろう」


「ですが、龍神である東都様の言葉であれば……!」


「ウム!」


(あれあれ~? なんか流れがおかしくなってきたぞぉ~???)


「「トート様なら彼らを説得し、絆を取り戻す事ができるでしょう!」」


(ちょ?! その根拠はどこから?!)


「えーと、それはつまり……僕に世界中の国を回ってこいと?」


「ウ、ウム。平たく言えばそういうことになりますな」


「「…………」」


 部屋の中を重苦しい空気が包む。

 だが部屋の鉛のような雰囲気とは逆に、東都の心は弾んでいた。

 彼は笑いをこらえるような顔をしている。


(これは……アリだな!!)


 東都はライトノベルやゲームが大好きだった。

 異世界に行って魔法を使い、冒険をするのは彼の夢だったのだ。


 とはいえ、さすがの彼もトイレを出す能力で転生するのは予想外だった。


 本当はチートスキルや最強魔法を使って、モンスターや悪人をばったばったとなぎ倒し、かわいいヒロインに囲まれてチヤホヤされたかったのだ。


 それなのに、女神に与えられたのは「トイレ」だ。

 なんか思っていたのとちがう、コレジャナイ感がただよう転生だった。


 せっかく転生したというのに、なんでオッサンの喘ぎ声を聞かされるのか。

 どうして戦いは毎回泥臭い、水くさい、いや、臭い水なのか。


 今までのことを思い返して、モヤモヤした気持ちに襲われたのだろう。

 笑顔から一点、東都は眉間にしわをよせ、口をへの字にして顔をしかめる。


「トート殿……?」

「閣下、やはり厚かましすぎるお願いだったのでは」

「むむむ……」


 小声で「やっぱまずかったのでは」と、相談するエルと伯爵。

 だが彼らの言葉は、自分の世界に集中している東都の耳には入らない。


(ここまでトイレだのウンコだの、異世界でそれはどうなのよっていう展開だったからな……エルフやドワーフの国なら、きっとフンバルドルフよりはマシだろう。ようやくちゃんとしたファンタジーができるぞ!)


 そうだ。今からならきっと「展開」を取り戻せる。


 自分の異世界ファンタジーはここから始まる。

 これまでは序章だったのだ。


 そんな想いが東都の体に力をみなぎらせる。

 気づくと彼の口から、勝手に言葉が出てくる。


「やります。いえ、やらせてください伯爵さん!!」


「トート殿! その言葉が聞きたかったですぞ!!」


「さすがトート様ですわ!」


 熱く握手を交わす東都と伯爵。その内心は激しくすれ違っているのだが、「異種族の国へ行く」という結果は同じなので、まぁ問題ないだろう。


「では説明いたしましょう」


「エルフの国が良いです。まずはエルフです。エルフしか勝たん!!!」


「は、はぁ……」


 エルは地図を出してフンバルドルフの周辺情勢を説明しようとしたが、東都は食い気味に発言してその説明を中断させた。


「ウム……トート殿がそこまで言うのなら、まずはエルフの国から始めるべきか。とはいえ、海の国へいくなら、船を用意せねばならんな」


「あれ? 港に泊めてるクサイアスじゃ駄目なんですか?」


「クサイアス号は、ゲリべ川のような穏やかな場所を進むために造られてますからね。荒れた外洋を進むには、もっと底の深い、頑丈な船が必要です」


「エル、それならイイモノがあるぞ」


「イイモノ?」


「ウム。ドワーフたちに造らせた新造艦だ。なんでも外洋航行のための新しい技術を大量に盛り込んだとか。あの船なら海の国まで行けるはずだ。」


「へぇ、何ていう名前の船です?」


「たしか、ティナティックTINATIC号とかいったかな?」


「ティナティック……たしかドワーフの言葉で『巨人』という意味ですわね」


「なんでも理論上は、同じ大きさの物体にでもぶつからない限り不沈とのことだ。トート殿を海の国へ送るのに、これほどふさわしい船はなかろう」


(…………なんだろう。なぜかすごい嫌な予感がする。)




※作者コメント※

新造艦なら大丈夫だな。ヨシ!!

遭難なんかしないさ、ウン!

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