神々との絆(1)

今回は珍しく世界観の解説回です。

ーーーーーー



 街に戻ると呑めや歌えやの大騒ぎが始まった。


 しかし、まだ未成年の東都はお酒が飲めない。

 あちこちでお酒を勧められるがすべて断り、テーブルの料理をつまんでいた。

 そうしてテーブルを渡り歩いていると、東都は突然伯爵に呼び止められた。


「トート殿、折り入って話したいことがございます」


「は、はぁ……」


 どうやら東都に何か話があるらしい。

 しかし、彼に話しかけてきた伯爵は、険しい顔をしている。


 深刻そうな顔をしているだけに「いやです」とは東都も言いづらい。

 生返事を返した東都は、そのまま伯爵の屋敷に連れて行かれてしまった。


 屋敷の一室に入ると、そこにはエルとコニーの姿があった。


(みんな揃ってる。話って一体なんだろう……)


此度こたびの戦いにおけるトート殿の活躍は、まさに目覚ましいものでありました。獣人たちもしばらくフンバルドルフには手を出せぬでしょう」


「いや、僕はその……やるべきことをしただけです。はは……」


 褒められ慣れてないのか、東都は居心地が悪そうに返事をした。

 伯爵はそんな彼の態度を謙遜と受け止めたのか、ゆっくりとうなずく。


「ウム。だが……獣王の側にいた魔術師。あの者が問題です」


「魔術師? あっ、あの怪しい人」


「やはりお気づきでしたか」


「は、はは……まぁ」


(言われて思い出した。いきなり龍神と呼ばわりされたインパクトで完全に吹っ飛んでいたけど……。あの魔術師、なにか重要そうな事を知っている風だったな。)


「あの魔術師は自分のことを背教者レネゲイドとか名乗ってましたね。女神は紛い物だとか、ふるい神様を信じているだとか……」


「閣下、これは間違いなさそうですね」


「ウム。そのような放言ができるものは、背教者に間違いない」


「その背教者っていうのはどういう……?」


「それについては私から説明させて頂きますわ」


 トートが質問はコニーにさえぎられた。

 彼女はコホンと咳払いすると、古代ベンデル帝国の歴史の話を始めた。


「古代ベンデル帝国の時代、帝国は広大な版図を持っていました。そして帝国には人間だけでなく、ドワーフやエルフ、オークといった異種族も数多くいましたわ」


「へぇ……今のベンデル帝国とちがって、昔はいろんな種族が一緒に街で住んでたってことですか?」


「はい。現在の帝国と違い、フンバルドルフにも数多くの異種族が住んでいたようです。しかしそうなると問題があります」


「異種族だし……考えとか色々違うから問題が起きそうですよね」


「そのとおりですわ。そこで古代ベンデル帝国は、考えも生活様式も全てが異なる異種族をまとめ上げるために女神教を唯一の教えとして国教にしました」


(ふむふむ……なんかどっかで聞いたことがあるような話だなぁ。ん……女神教が唯一の教えってなると、それまで異種族が信じていた宗教は?)


「ちょっと待ってください。そうなると異種族の宗教はどうなったんです? まさか、女神教を国教にするからって禁止したんじゃ……」


「オークの祖霊、エルフの祖神そしん、ドワーフの氏神などの信仰は禁じられはしませんでしたが……」


「あまり良い扱いはされなかった、そういうことですね」


「はい。私たちの祖先が犯した過ちのひとつです」


(ふむふむ。連中の目的が何となく見えてきたぞ。……あれ? でも、そうなるとちょっとおかしいな。魔術師は人間だったぞ?)


「あれ、ちょっと待ってください。僕が会ったレネゲイドの魔術師は人間でした。女神教は人間が信じていた宗教なんじゃないんですか?」


「いえ、人間にもいくつかもの宗教がありました。しかし、女神教には他の宗教と決定的に異なる存在があります――転生者です」


「転生者が?」


「祖霊や祖神と違って転生者は神ではありません。ゆえに人々と自由に交わって、世界に影響を与えていきました」


「そっか、女神も女神自体がいつでもいるわけじゃない。神殿からでてこない神様と違って、直接的なご利益があるってことか……」


「そのとおりです。女神教は転生者が力をふるうことで広まった宗教なのです」


(ここまで聞いた話によると、女神自体は姿を現すっぽいけど……そこからなにかするのは出来ないっぽいな。できるならコレラをなんとかしてるはずだ。)


 黙考する東都は女神の真意を推測する。

 詳しいことはまだわからないが、女神は何をやろうとしているのか?

 それだけは東都にも多少の目星がついた。


(転生者は自分の代わり。女神信仰を広めるために利用したのか? あの女神……初めてトイレのスキルを取った時にも思ったけど、結構な腹黒なんじゃ?)


「しかし、これが背教者を生み出す要因の一つとなりました。古代ベンデル帝国が崩壊したのは、この背教者の暗躍にあったといわれています」


「ウム。背教者レネゲイドは言葉巧みに人々を操って傀儡とし、自らが奉じる旧神の勢力を伸ばすために捧げたのだ。」


「旧神……いったいどんな神様なんです?」


「わかりません。ただ『オールド・ワン』いにしえの者とだけ言われています」


「うーん……わからないことだらけか。いや、ひとつだけありますね」


「えぇ。このまま背教者を放っておけば、きっと古代ベンデル帝国の時と同じことが起きるでしょう。つまり――」


「帝国の崩壊……ですか?」


「もっと悪いでしょう。今の帝国は古代ベンデル帝国より弱っています。信じられるモノが何も無い、混沌こんとんとした時代にもどることでしょう」


「ウム。つまり――世界の崩壊だ。」




※作者コメント※

東都くんの次の旅先についてのアンケートにご協力いただき

ありがとうございます。

えー、結果ですが


オーク7票

ネコ人3票(5票?)

ドワーフ0票はわからんでもない

し、しかし、エルフが0票……だと……?


というわけで東都くんの次の旅先はオークの国になりました

いいんだな! この作者は本当にやるぞ!!

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