【本格回】女神教総本山

「トート殿、ここが女神教の教会です」


「へぇ……これが――すごいなぁ……」


「立派なものでしょう。この教会は、ベンデル帝国における女神信仰の拠点となっております」


 東都の目の前には立派な教会がそびえ立っていた。


 白い大理石で作られた教会はいくつもの高い尖塔を持ち、空をギザギザに刻んでいる。尖塔の太い柱に囲まれた間の壁は小さく、そのスペースのほとんどが窓に割り振られていた。そうしてムリヤリ押し込められたような窓のすべては、華麗なステンドグラスがはめられている。


(ゴシック建築ってやつ? みるからに荘厳な教会だ。でも、どことなく不気味な恐ろしさを感じるなぁ。)


 伯爵に促され、東都は教会に入る。

 すると、彼はさらに驚かされることになる。


 教会の中は天井の高い大聖堂になっている。

 聖堂の天井はいくつかのドームが連なるようになっていて、鉤爪のような形をした大理石のアーチが、繊細かつ大胆なこしらえで支えていた。


 天井のドームは金属製のフレームで作られていて、巨大なステンドグラスがはまっている。ドームを陽光が通り過ぎることで、複雑な色彩が聖堂の床に落ちる仕組みになっているようだ。


 天井から降り注ぐ光の筋は、教会の床に女神の神話を描きだす。

 その流れるような色彩は、音のない音楽を奏でているようだった。


「す、すごい……こんなの初めて見た」


「フゥン、そうでしょうとも!! これほどスンバラすぃー女神様の家は、東の国にありますまい!!」


「あ、エッヘンさんが生き返った」


「死んでないわ!」


「エッヘン伯、そもそも東の国は宗教が違うのでは?」

「うんうん、だよな」

「ウム。なくて当たり前のもので威張いばるのはさもしいぞ」


「だまらっしゃい!」


 大聖堂の中を進むと、東都を巨大な女神像が出迎えた。

 女神像は説教壇の後ろにあり、聖堂の信徒たちを見守るように見下ろしている。


(あ、この顔……。)


 東都は女神像の白い面影に見覚えがあった。

 女神像の顔は、謎の空間で出会った女神そのものだったのだ。


「トート様、どうしました?」


「いや、その……すごいものを作ったな……って」


 まさか「僕が出会った女神と同じですね」なんて言えるはずもない。


 東都は誤魔化そうと角の立たないお世辞をコニーに言ったが、それが何故かエッヘンの自尊心を満足させたようだ。


「フゥン! このような見事な彫像を見るのは初めてかね? そもそもこの女神像は我が祖先が教会に寄進したもので、当時の価格にして――」


「また始まったな。」


「伯のいつものウンチクですね。これが始まると長いんですよねー」


「コニーにまで言われるのか……」


「何よ。私はちゃんと気をつけて要約してるわよ」


「そうかぁ?」


「フゥン。わが深淵なる知識は要約などに収まるものではない。そんなもので満足するウォーシュとはちがうのだよ」


「ただ単に、短くまとめられないだけじゃぁ……」


「ワシを呼び捨てにする貫禄をどこで拾った、エッヘン?」


「ヒィ!」


 東都は伯爵たちから少し離れ、中を見回ってみることにした。

 彼はこの場所を普通に楽しんでいる様子だった。


(本当にスゴイな~。まるで海外旅行に来たみたいだ。

 あ、実際異世界だったか……)


 東都は大聖堂の壁に並んでいる石像を見て回ることにした。

 というのも、そこには騎士風の格好をしている石像が並んでいたからだ。

 東都はゲームが好きなので、こういったものに興味があるのだ。


(わ、この騎士の像、ダー●ソウルみたいだな。ん……?)


 東都はある石像に違和感を感じて立ち止まった。

 それは壁のアーチに収められた、女神を模した人間大の大きさの石像だ。


 女神像自体には、とくに妙なところはない。

 だが、女神像が手に持っているモノ・・が問題だった。


「え? えぇ?」


 東都は思わず女神像を二度見してしまった。


 女神像は手に長い布を乗せて、布を掲げるようなポーズをしている。

 そして布の上には、幼児の姿をした何かがあった。

 幼児の頭部は目鼻がなく、のっぺらぼうだ。

 手足もひじひざの途中からなくなって触手めいたものになっている。


(なにこれ……ちょっとしたホラーじゃん。名状しがたい宇宙的恐怖ってヤツ? いやでも教会だし、まさかなぁ……)


「ホッホッホ、その像に興味がお有りかな?」


「えっ、あ、はいっ?!」


 東都が石像の前で腕を組んでうなっていると、背中から声をかけられる。

 彼が振り返ると、そこには白いローブを着た聖職者らしき老人がいた。


「この像は、転生者を抱く女神様を表わした像ですぞ」


「転生者? じゃあこれは――」


「はい。女神様が手になされているのは、異世界に存在する魂です。女神様の手でこの世界に異世界の魂が現れる瞬間を表現しております」


「へ、へぇ……」


(いっちゃなんだけど、すさまじく邪教っぽさがあるんだけど……)


「ここに並んでいるのは、異世界より来た転生者たちの像です。彼らの功績をたたえるために、こうして彼らの姿を残しているのですぞ」


「え、じゃぁこの鎧の人たちって、この世界の人たちじゃないんですか?」


「ホッホッホ。左様にございます」


「へぇ……こんなにたくさんの転生者が来ていたのか。」


 東都の前に並んでいる石像は、軽く数十体はある。

 これだけの数の転生者が、この世界に現れたということだろう。


(あ、もしかしたらまだ生きてる転生者がいるかも! そしたら以前の世界のことを隠さずに相談できる相手が増えるぞ!)


「この像の人たちって、今はどこにいるんですか?」


「ホッホッホ。面白いことを仰る。もちろん女神様の御下みもとですよ」


(へ? ってことは……みんな死んでるって……コトォ?!)


 冷や汗を流した東都は、あらためて転生者たちの像を見る。


 像の足元には文字の書かれたプレートがある。

 碑文には転生者たちの偉業と、彼らが活動したであろう年代が書かれている。


 しかし、どのプレートも2年から3年で終わっている。

 短いものになると、現れた年しか書いていなかった。


(ん……なんか活動年がやたら短くない?)


「あのこれ、ずいぶん期間が短いみたいですけど……」


「不思議なことに、異世界から現れた転生者たちは生が短いのです。暗黒竜を召喚し従えた勇者は眠り病にかかり命を落とし、天使の軍勢を従えた勇者も、戦いの後に熱病で倒れて命を落としました」


「えぇ……? あっ」


(それもそうか、ドラゴンや天使の軍勢を出せても、きれいな水や食べ物は出せない。薬もないこの世界、現代っ子じゃすぐ病気になって死ぬかぁ……)


「どうかなされましたか?」


「あぁいえ、おじいさんの名前をまだ聞いてなかったなと思いまして!!」


「ホッホ。これは申し遅れました。私は総司教のブリューと申します。陛下よりこの女神教教会を預からせていただいております」


「へ? そーしきょう?」




※作者コメント※

トイレの話で教会の描写をガチるんじゃない!!

ブリューのおじいさん、意外と話はできそうだけど…うーむ。

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