もう一つの問題
「だ、大丈夫ですか―?」
ウォシュレットに吹き飛ばされたエッヘンは、酢とボロ布でぐちゃぐちゃだ。
エッヘンに近寄ると、つんとした匂いが東都の鼻を突く。
「この宮中伯たる私に何たる無礼を!! 決闘だッ!!」
よろよろと立ち上がったエッヘンは決闘を宣言し、水と酢でべしょべしょになった手袋を東都に投げつけた。
だが、東都は投げつけられた手袋をさっと避けた。
恐れよりも、ばっちいの方が勝っていたのだ。
「避けるな!」
「そんなこと言われても……」
「おい、アンタ!」
「アンタとは何だ、私は――」
「それだよそれ、髪にくっついてるやつ!」
「ん……?」
手に木の棒を持った店主が、棒でエッヘンの髪を指す。
「「あっ」」
店主に言われ、東都も気づいた。
エッヘンの髪の毛はワカメのようにビロビロになっているだけでなく、ボウルの中に入っていたコインが、子持ち昆布のようにくっついていたのだ。
「持ち逃げしようたって、そうはいかないよ!」
「ま、待て、これは誤解だ!!」
「泥棒に5回も6回もあるもんかい!! 覚悟しな!」
「ギャー!!!」
もみくちゃにされるエッヘンを見ながら、東都は冷や汗を流していた。
「わぁ……何か大変なことになっちゃった」
「まぁ、エッヘン宮中伯ですから。たぶん大丈夫だと思います」
「あんな事しても大丈夫なんですか?」
「エッヘンには領地もなければ兵もおらんからな。手出しはできんだろう」
エルと伯爵は、無慈悲な現実を語る。
エッヘンには皇帝直属の家臣という後ろ盾はある。
だが現実問題として、兵隊や資金といったものは持っていない。
宮中伯という肩書きは立派だが、それに見合った力が無いらしい。
「ああ……そういう感じなんですね。でも衛兵さんは?」
「フンバルドルフの代官が求めれば、彼らは断ることはできんからなぁー」
「衛兵さんは無理矢理つきあわされてた感じなんですね」
「ウム。そういうことだな。義務感で付き合ってただけだろう」
「あ、それよりも……トイ――柱!」
エッヘンを吹き飛ばしたトイレは、まだ派手に水を吹き出したままだ。
水の勢いを弱めたい東都は、そのための指示を、身振り手振りを交えて呪文っぽく唱える。
「ミズ・チョト・ヨワメニー! ソウソウ・ソンナカンジーィ!」
東都がそう唱えると、獣の顔から吹き出す水が直線から優雅な弧を描く。
(ふぅ……収まった。このトイレは誰彼かまわず言った人の指示に従うから困るな。操作にロックをかけるとかできるかな?)
「コノママ・ミズノイキオイ・ロックシテー……カイージョスルマデ・コテイー」
(これでどうだ?)
「テステス・ミズモットダシテー」
東都はトイレに指示をするが、流れる水の量に変化はない。
どうやらちゃんとロックが効いているようだ。
(ふぅ……最初からこうすればよかった。女神の説明が雑すぎるぞ!!)
「トート殿、今何を?」
「これは、えーっと……水の流れが急に乱れないようにおまじないをしたんです。さっきみたいなのがまた起きると困りますし」
「なるほど。助かります」
「いえいえ」
「ふぅ……それにしても布告か。ちと問題だな」
「えーっと、フンバルドルフの病を解決したら、街を与えるとかっていう話ですっけ。何か条件が雑というか……ふんわりしてますよね」
「ウム。もっと詳しく知るべきだな」
「ですが閣下。唯一それに詳しそうなエッヘンは、あのザマですよ」
コニーが指差す先には、もみくちゃにされて気絶しているエッヘンがいた。
どうやら店主たちに囲まれ、失神するまで棒で叩かれたらしい。
「仕方がない。気がつくまで面倒を見てやるか」
「はぁ。」
伯爵は気絶しているエッヘンをひっつかむと、彼が乗っていた馬の上に上げる。
馬の顔がどことなく迷惑そうに見えたのは、気のせいだろうか。
「噴水でキレイな水を配れば、街中のコレ――コロリは次第に良くなると思います。ですが……まだ教会のほうに問題が残っていますね」
「教会が、ですか? それはどういうことですか、トート様」
「旧市街にある教会の聖職者の人たちがコロリにかかってしまうのは、使っている水に何か問題があるはずです。それを調べないといけません」
「なるほど、では――」
「はい、次は女神教の教会に行きましょう。」
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※作者コメント※
さて、ついにきたか女神教……
この世界で女神が何をやってるのか?
それがわかったりするのかしら
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