思わぬ合流

「そうだ、エルさんたちに合流しないと!」


 東都は迷いを振り払い、動き始めた。

 なにはともあれ、今の彼にはやらねばならないことがある。


 この古塔には伯爵が閉じ込められている。

 彼を助けださなくては。


 東都は周囲をみまわしながら、石壁にそって歩く。

 自分がいまどこにいるのか、それを確認するためだ。


 彼は古塔の小部屋にいるようだ。

 小部屋の広さは4畳間ほど。

 不自由さを感じるほどの狭さではないが、自由を感じるほど広くない。


 壁には縦に細長い切れ目のような窓があり、白い光が差し込んでいる。

 その反対側には、鉄の板で補強された重々しい木の扉がある。


 扉の鉄の部分には、のぞき窓のような機構がある。

 東都が近寄って触れてみるが、窓はびくともしない。

 どうやら外側からでないと開かない構造になっているようだ。


「この感じからすると、独房っぽいな」


 扉から後ろを振り返った東都は、部屋の中を見る。

 彼の視線の先に、家具らしいものはない。


「独房っぽいけど何も無い。ってことは、今は使われてないのか?」


(たくさんの貴族を捕まえているはずなのに使われてない。ってことはつまり……)


 東都は扉に手をかけて、体を使って押す。

 すると、ドアはきしみながらすこしづつ動き出した。


(ビンゴ! 扉のカギが壊れてるから使ってないんだ!)


 東都がいる場所は、古塔の独房だった。

 しかし、扉の鍵が壊れているために、今は使われていない独房だったのだ。


 東都が独房の外にでると、円環状になった木の足場に出た。

 塔の外周に沿って独房が配置され、それぞれの独房の前に木の足場がある。


 足場には申し訳程度に手すりがあるが、だいぶ古くなっていて頼りない。

 中央は吹き抜けになっていて、見上げると塔の天頂にある大きな丸窓が見えた。


「こりゃおっかない……建築基準法、なにそれおいしいの? って感じ」


 木の足場は見るからに粗雑な作りで、間に合わせで作られたような印象がある。

 床の上に足を乗せると、ひどくきしんだ。


(天上の丸窓は結構近くにあるように見える。背教者のやつ、僕をだいぶ塔の上のほうに出したみたいだな)


 下をのぞくと、ひょう、と闇から吹き上がる風が東都の頬をなでた。

 塔の底の方は暗くてよく見えない。

 エルやコニーは今も上を目指して登っているのだろうか。


「こっちはこっちで伯爵を探してみるか? うーん」


 周囲に見張りはいない。

 先に伯爵を見つけて下に降りたほうが手間がなさそうだ。


 東都はリングを時計回りに歩いて、独房の中を確認することにした。


「さて、まずお隣は……」


 東都は出てすぐとなりの独房の中を確認する。

 ドアにあるのぞき窓の板を押し、中の様子をうかがう。


「……あっ」


 独房の中にいたのは、エッヘン宮中伯だった。

 彼はベッドの上で座禅を組むような姿勢で座り、目を伏せている。


「エッヘンさん、何してるんです?」


「フ、悪魔め……私を誘惑するか」


「あくまぁ?」


「私は考えた、人はなぜ苦しむのか、なぜ憎しみ合うのか……」


「はぁ」


 東都はエッヘンに話しかけてみたが、どうも様子がおかしい。

 続けて会話をしてみるが、どうも要領を得ない。


「いちおう、皆さんを助けに来たんですけど」


「ふ……君は私が作り出した幻影だろう。異国に旅立ったトート様が、このようなところにいるはずがない」


「いや、普通に帰ってきたんですけど?」


「悪魔よ……いま、私の心は平静そのものだ。ここに君が求める闘いや憎しみの心はない。地獄に去りなさい」


 長いこと独房に閉じ込められたせいか、エッヘンは悟りに至ったようだ。

 意味があるようでない、スピリチュアルな反応を東都に返してくる。


「うーん、こうなったら仕方がないか。トイレ召喚!」


 東都はのぞき窓に手を入れて叫び、独房の中にトイレを召喚した。


「フ……幻影を駆使するとは。なかなか手の込んだ悪魔だ」


「幻影かどうかこれでわかりますよ。ウォシュレット……全開!」


 扉の前から離れて、東都はトイレのリモコンを操作する。

 するとレーザー光線のような水が吹き出し、独房のドアを吹き飛ばした!


<ズガァァァァッ!!!>


「これでわかってくれましたか?」


 独房の中でウォシュレットの水をかぶったエッヘンは目を丸くしていた。

 先ほどまでの雰囲気は消し飛んでいる。

 どうやらエッヘンは、正気に(?)もどったようだ。


「……ま、まさか本物のトート様なのか?!」


「だからさっきからそう言ってるじゃないですか」


「フゥン、まさか助けに来るとは……このまま朽ち果てるとおもっていたぞ」


「エッヘンさん、助けて早々で申し訳ないんですが、ウォーシュ伯爵の独房がどこにあるか知りませんか?」


「フゥン。それなら一足遅かったな。自由伯はこの塔の中にはもうおらん」


「えっ?!」


「ついさっき牢から出されて、引っ立てられていったのだ」


「そんな……伯爵は一体どこに?」


「決まっておろう――処刑場よ」


「!?」




※作者コメント※

本来、皇帝は勝手に処刑を実行できないはず。

しかし、議会が止まった今は……

シリアスさんの唐突なエントリーだ!!!

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