いざフンバルドルフへ
「作るって、トート様はいったい何を作るおつもりで?」
「はい、噴水です」
「噴水?」
「伯爵が池に置いたトイレのことを水の柱と言ったので、それで思いついたんです。町の広場にアレを置いて、噴水から水を持って行ってもらうんです」
「ベンデルの街には市場広場がありますが……そこに噴水を作ると?」
「はい。水道に手を加えることが出来ないなら、そうすればいいかと」
「しかし、広場にアレをいきなり置いて大丈夫でしょうか?」
「うむ……エルの言うとおり、問題になるかもしれん」
「ですよねぇ、いきなり置いたらさすがに――」
「私は良い考えだと思います」
がやついたホールの中に、妙に通りの良いコニーの声が響いた。
少し日が傾いた今、コニーは窓から差し込む
薄闇の中で、彼女はその瞳を猫のようにらんらんと輝かせていた。
「何か嫌な予感がするのう……」
「伯爵、私もです。ああなったコニーはヤバいです」
「東の国から未知の魔導具を携えた魔術師が現れ、寄りついた記念として魔導具をフンバルドルフに残していく。何ら不自然なことではないでしょう」
「いや、不自然さしか無いと思うが」
「水を出す柱自体が、そもそも不自然の塊ですよね」
「自分で出しといてなんですけど、僕もそう思います」
伯爵とエルだけでなく、魔術師本人からもツッコミをうけるコニー。
だが、それでも彼女はひるまない。
まるで神官が
「ここよりはるか東の国から来た大魔術師トート。彼は生きとし生けるものを拒絶する死の砂漠をたったひとりで超え、このベンデル帝国にやってきた」
「そうなんですか?」
「まぁ……そんな感じです」
(気づいたら森の中だったんたけど。まぁ、面倒だしそういう事にしておこう)
「死の砂漠を超えることができたのは、水の都に由来する魔法を携えていたためだった。そして彼はベンデル帝国に到達した証として、魔法の力が宿った白亜の柱を街に残した……」
「トイレですけどね」
「柱からは清らかな水が無尽蔵に出てきて、貴賤の区別なく、街に住むすべての人の喉をうるおしたという――」
「トイレだけどな」
「苦いだけのゲロ味の熱冷まし。ドロドロで異臭のする湿布。腹を下すだけの胃薬を売りつける、クソの役に立たないフンバルドルフの魔術師会に比べると、東の国からやってきた魔術師様のなんと素晴らしいことか」
「最後?! 何か余計な敵を作りそうなんですけど!?」
「単純にコニーお前……フンバルドルフの魔術師会に喧嘩売りたいだけだろ」
「トート殿の迷惑になるじゃろそれ」
「でも……酢の恨みもありますし」
「コニーに盗賊の酢を売った薬師って、魔術師会のやつだったのかよ……」
「はい。何が魔術師会のお墨付きですか。フツーにお腹下しましたよ」
「「純粋な私怨?!」」
「ふーむ……コニーではないが、ワシが思うにトート殿の案はそこまで悪い考えには思えぬな」
「閣下まで!?」
「まぁ待てエル。考えてもみよ。他に方法があると思うか?」
「たしかにそういわれますと……まずもって、売るのは無理ですね」
「うむ。水売りのギルドが黙ってはおらんだろうな」
「かといって、売らずに配るとしてもも人手がいります。手伝いを求めるにしても、教会は……難しいですね」
「いくら有用でも、異教の魔術師の道具となると、説得に時間がかかるだろうな」
「となると、置くしか無い? 一番無茶苦茶な方法が正攻法になるなんて……」
「なに、そんなのは戦でもよくあることだ。」
「では――」
「うむ。フンバルドルフに魔術師殿の偉業の記念碑としてアレを置く。それが無難であろう」
「でも、いいんですかね……」
「なに、多少飾り立てれば気づきはせんだろ。嘘も方便というしな」
「では――」
「うむ。いざフンバルドルフへ」
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※作者コメント※
真面目なことやりすぎた。(どの口で?)すこしトイレ要素が薄まってきたので次回から異世界トイレ要素を補充していきます。
あと、キャライラストも唐突に書きたくなったので描きます。
いえぃ!
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