エルフの歴史
「
「僕たちのことを疑うなら、黒曜氷河の海岸を見てください。これと同じ槍を持った、たくさんのサハギンが氷漬けになっています」
「うぅむ……」
「信じても良いんじゃない?」
「サトコ、そんな簡単に――」
「ベンデル帝国の重鎮に書状を任される者が、簡単にバレるウソをつくとは思えないもの。つくとしたら、もっとマトモなウソを考え出すでしょう」
「……だが、これの意味がわかっているのか?」
「ええ、もちろんよ。槍を手に入れられる者はエルフの貴族だけ。つまり、エルフの貴族の中に内通者が存在するということね」
「おい!」
「部外者の前で恥をさらすなっていうつもり? それこそ恥の上塗りよ」
「むむむ……」
「あ、あの~……」
「あぁ、ごめんなさい。こっちばかり話しちゃって」
「いえいえ、それは良いんですけど……僕たちはエルフの国のことをよく知らないんです。まずは情報交換といきませんか?」
東都が提案するとサトコのメガネが光った。
サトコとヒロシは頷き、東都の提案を快く受け入れた。
人とエルフの情勢は、互いに不明な部分が多い。
情報を出し合うのは、彼らとしても望むところだったのだろう。
「そちらに教えてもらったところだし……次はこちらが教える番ね」
「そういえばさっきから気になっていたんですが……帝国やオークとくらべると、エルフの人たちの名前って独特ですよね。何か理由があるんですか?」
東都はエルフの名前について質問した。
彼らの名前は、東都が元いた世界の日本の名前に近い。
いや、そのものといってもいい。
シグルドの本名、「ヒロシ」のインパクトで疑問はすっかり消し飛んでいた。
しかし冷静に考えると妙に思える。
なにしろ、彼らはバリバリ洋風の文化を持っている。
エルフの文化から察するとシグルドのほうが有り得そうだ。
東都が出身を騙っている「東の国」ならまだしも……。
エルフの真名がバリバリの和名の「ヒロシ」とはどう言うことなのか。
それが東都には疑問だったのだ。
「名前ね……これって実は、エルフの歴史に関係してるの」
「エルフの歴史ですか?」
「ああ。私たちエルフは転生者がもたらした文化や技術の影響を受けているのだ。私たちの真名も、転生者に影響を受けたうちのひとつだ」
(なるほど。転生者の影響か……)
「エルフは転生者の文化を取り入れたんですね。ではこの建物や槍も……」
「転生者の影響ね。もっとも、今は私たちの文化になってしまっているけど」
「そうなんですか?」
「古代ベンデル帝国の時代のエルフはずっと質素な生活だったらしいわ。転生者がもたらした文化を取り入れたことで、次第に変わっていったみたい」
「な、なるほど」
(うへぇ。そんな昔に僕の世界の連中がやらかしたのかぁ……。エルフの会話が変だったのも、転生者が中二病会話を吹き込んだせいなのか?)
「じゃあ、ヒロシさんの会話や名前がアレなのもそうなんですか?」
「アレとは何だ! 貴公だってやってたじゃないか!」
「まぁ、勢いというかなんというか……」
「確か……200年くらい前かしら? その頃にやって来た転生者が、第二の名前をつけるようにエルフに薦めたのよ」
「古い転生者の文化が、新しい転生者に変えられたってことですか?」
「そうなるわね」
(転生者も、エルフの名前がヒロシとかサトコなのに抵抗があったのかな……。 それにしても、200年前って。元の世界と時間の流れが違うのかな?)
「ヒロシがやってるトンチキで回りくどい喋りかたも、その頃に伝わったものね」
「あの喋り、普段からやってて不便じゃないんですか?」
「フッ、心配は無用だ。」
「えぇ?」
(家族全員が中二病会話とか地獄じゃん)
「家族の間だったら『ふむ……』とか『左様……』で大体通じるからな」
(家族の間で会話が少ないってそういうことじゃないだろ!!)
「そ、それにしても、転生者とエルフの国は繋がりが深いんですね」
「なぜか転生者は私たちエルフの国に来たがるのよね。先の転生者も帝国に現れたあと、エルフの存在を知るやいなや、私たちの国に来ようとしたらしいわ」
「へ、へぇ~……そうなんですか」
「そういえば、トート様もエルフの国を第一に選びましたよね」
「そそそ、その人はどうしたんですか!」
ごまかそうとして、東都は食い気味に転生者のことをサトコに聞く。
しかし、彼女は首を横に振った。
「船の上で病になってしんだらしいわ。全身が真っ黒になって骨が鳴り、血が止まらなくなる病だったそうだけど」
「ひぇっ」
「おそらく壊血病ですね。転生者も病には勝てませんか……」
「あー……」
(そういえば歴史の授業か何かで聞いた覚えがあるなぁ。大航海時代って、船の上で新鮮な野菜が取れなくて壊血病にかかって死んじゃうんだっけ)
「次はこっちからの質問よ」
「は、はい!」
「あなた達の訪問の目的は何かしら?」
「それは……
「なるほど……共同戦線のお誘い、ということになるのかしら」
「はい。背教者と戦うには、各国との協力が必要です。」
「それは難しい問題ね。貴方は古代ベンデル帝国の時代、各種族が協力したなんて言ったけど……実際には、帝国が他人種を圧政で支配していたのよ」
「支配だって?」
「エル、どういうこと?」
「わからん。そんな話は聞いたことがない。だが……ウソとも思えない」
(う……大体そんなことだろうとは思った)
「それは、当時の歴史がねじ曲げられていたってことですか?」
東都の疑問に対して、サトコは首を
どうやら、古代ベンデル帝国の人間たちは、当時の歴史を改ざんしたらしい。
自分たちの都合が良いように色々と修正したのだろう。
「古代ベンデル帝国の時代――背教者が女神教に挑み、それを撃退したという事実は正しいわ。ただし、そこで起きたことは正しく
「何があったんですか?」
「帝国は軍隊を出し惜しんだの。彼らは圧政を敷いていたから、人間の軍隊が
「人間の軍隊が消耗することで、反乱が起きることを恐れた?」
「その通りよ。そちらが消してもしっかり残ってるわよ。なにせ、私たちエルフは冗談みたいに長寿だからね。記憶こそ薄れているけど、当事者はまだいる」
「「……」」
普段、ツッコミに騒がしいエルとコニーも押し黙っていた。
帝国人の彼らとしては、思うところがあるのだろう。
「正直に言って、帝国に対してエルフが協力するのは難しいわ」
無情にも、サトコはそう言い切った。
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※作者コメント※
この状況で顔を出すシリアス=サン
すぐ死ぬけど再生能力は高いのか…
あ、作業時間が微妙に取れなかった&資料読み込みのため
更新を1日スキップしました。
そろそろコメント返信もしないと……
アタフタ
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