真実は背後にある

「あの、ところでトート様……」


「なんですか? ――あっ」


 コニーに声をかけられた東都はハッと我に返る。そして彼は、2人の頭の上の数字が、90の大台に乗っていることに気がついたのだ。


 オークのトイレを出てからエルとコニーはそのままだ。

 東都が推理している間、彼らはずっと便意を我慢していたのだ。


「すみません。気づきませんでした」

「と、トート様、で、できるだけ早くしてくれると助かります」

「そろそろ動けなくなりそうだわ」


「どうしたンだべ?」


「お2人がトイレを使いたいみたいで……もう限界が近いみたいですね」


「おう。それくらいがちょうど良いんだ。」


「のんきなことを言ってる場合では……ッ!」


「すみません、早速トイレを出しましょう。ホラレーさん、外を借りますね」


「トイレを出す? トイレに行くんでねぇのか?」


「実は……僕はトイレを出す魔法が使えるんです」


「もう一度言ってもらってええか?」


「トイレを出す魔法が使えるんです」


「どうもおめの精霊は頭がおかしいみてぇだな」


「本当なんですって!」


「トイレを出す魔法なんか聞いたことねぇべ。まだ土塊つちくれをヒトにしたり、きんを手から出す方が信じられるべ」


「それはそう。じゃなくって!」


「何もちがわねぇべ」


「トート様、ともかく魔法を見てもらったほうが早いのでは?」

「そうね。こうしてる時間すら惜しいわ」


「っと、そうでしたね……お2人のためにも、まずはやってみましょう!」


 一行はトイレのために小屋の外に出た。

 まずはトイレを置くための場所を探さないといけない。


 小屋の周囲を見回した東都は、小屋の近くに開けた場所を見つけた。

 そこは空き地、というには少々とっちらかった場所だった。


 古い切り株を使った台があり、斧が刃を突き刺すようにして置いてある。

 近くには束ねられたまきとまだ切られていない丸太が少々。


 この場所はどうやら薪割まきわり場らしい。


「いったん、ここに置かせてもらいますね」


「まぁ……やってみればいいべ」


「ありがとうございます」


 オーランからいささか消極的な賛同を得た東都は、空き地を指さして呪文(?)を叫ぶ。

 

「――トイレ設置ッ!! もひとつ設置!」


 すると、何もなかった雪の上に新雪にも負けない純粋な白が現れる。

 ――トイレだ。


 突然目の前に現れた、二対の白亜の柱。

 豪胆さで名高いオークも、これにはたじろいだ。


「こりゃいってぇ、何が起きたっていうンだ?」

「オラ、こんなまじないは見たことねぇぞ」


「これが僕のトイレ召喚です。これは――」

「助かりましたわ!」

「話は後で!!」

「あばばばばッ!?」


 トイレに急ぐエルとコニーに押され、東都は雪の上に尻もちをついた。

 よっぽど我慢していたらしい。


「んもう! まだ説明が途中だったのに」


「ふーん……これがおめぇの魔法か?」


「はい。僕たちがここまで来たのも、このトイレの力です」


「まるで意味が分からねぇンだが……」


「僕らは本当はエルフの国へ向かっていたんです。でも途中でサハギン(サメ男)に襲われて、命からがらトイレに乗って、ここまで空を飛んで逃げてきたんです」


「あー……すまねぇ。オラたちはオークだからよぅ、ヒトの言葉の難しい部分は、よくわからねぇンだ」


「オーラン、これはたぶん人間でも分からねぇと思うぞ」


 東都はこれまであったことをオークたちに説明した。

 しかし東都が頑張って詳しく説明するほど意味不明になってしまう。

 彼の旅は、あまりにも破天荒すぎたのだ。


「そうはならんべ……」


 水が流れる音がして、トイレからコニーが出てきた。

 彼女はオーランと東都を交互に見てうなずいた。

 どうやら今の状況を察したらしい。


「トート様は、オーランさんに説明するのに苦労されているようですね」


「あ、そうなんですよ。コニーさんからもお願いします」


「わかりました。では――」


 コニーは軽く咳払いすると、オーランに向き直った。


「オーランさん。つまらない常識に囚われてはいけません。今日こんにちの常識とは、もともと常識外れの発想から生まれてるのです」


 コニーの口からは、色鮮やかな言の葉が流れるようにまろびでる。

 それはまさに言葉の芸術だった。


「トイレが飛ばない常識も大事だべ。」


「オーランさん。常識とはいわば、大人になるまでに身に着けた偏見へんけんのコレクションなのです。すべての鳥が空を飛ぶわけではありません。逆に言えば、空を飛ぶトイレもあるのです」


「むむむ……」


「オーランよぅ、おめぇは一体何を村に連れてきたんだ?」


「オラにもわからん。だけんども口が達者で頭が回るのは確かみてぇだ。」


「んだな。それは確かだ。したら……ウェンディゴのことを任せンのに、これほどもってこいの連中はおるめぇな」


「うんむ。うんむ」


 空飛ぶトイレの真偽はともかく、弁舌べんぜつは認められたらしい。

 一応の信頼(らしきもの)を得た東都は、オークにトイレの説明を始めた。


「これが僕の魔法で出せるトイレです。こうしてここに座って使います。ここが暖房のスイッチで、これがウォシュレット、つまり――」


 東都はトイレの便座に座ってみせ、オークに向かってトイレの説明を続ける。

 ホラレーはそんな東都の顔をじっと見ていた。

 だが、説明を聞くというよりも、何か別のことが気になっているようだ。


「えっと、何か質問が……?」


「ふむ……オーランよぅ。この小僧が言ってる意味はおいにはまるで分からねぇ。けど、こいつは使えるかもしれねえど」


「あぁ、ちげぇねぇ。」


「うん……???」




※作者コメント※

更新が深夜になったのは、ウインターセールで買った

モンハンライズとサンブレイクのせいです。

ちなみに使ってる武器はランスです。

これいうとなぜかみんな「あぁ」みたいな顔します。

なぜだ……

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