バスユニット

(さて、TPとスキルを確認しよう。)


 東都はステータスを開いて、スキルツリーを確認する。

 彼が見たいのはツリーの下の方にある、設備のカテゴリーだ。


(えーっとどれどれ……『ユニットバス』これだな。そんでTPは――)


 スキルツリーの右上に表示されているTP(トイレポイント)は35点だった。

 数字を見た東都は首を傾げる。

 彼が想像していたよりも、TPが多かったからだ。


(あれー? ドバーにある伯爵の城館と、フンバルドルフの屋敷に置いたトイレだけでこんなにポイントが入るかなぁ……あっ、もしかして!)


 東都は思い出す。

 フンバルドルフにきたとき、一行は港の倉庫に大量のトイレを残してきた。

 そしてトイレは今もそのままのはずだ。


 だれも手をつけてなければ。

 

(ドワーフたちが使ってるんだろう。船に乗ってたドワーフは10人近かったし、彼らが使えば、これくらいのTPになるか。)


 実際、彼の想像通りだった。港でトイレットペーパーの製法の分析を行っているドワーフは、ちゃっかり東都のトイレを使っていた。


 そしてドバーでも同じく、彼のトイレが使われていた。


 伯爵がフンバルドルフに発った後、使用人と守衛たちは城の古いトイレではなく、東都が置いていったトイレを使用していたのだ。


 清潔で悪臭もないトイレは、すぐに人気になった。


 東都が各地に置いたトイレは、彼のあずかり知らない所で使われている。

 そしてそれが全て東都のTPとなっていたのだ。


(ま、いっか。減るならともかく、増える分には問題ないか!)


 気を取り直した東都はスキルツリーを見た。設備のカテゴリーはボタンが多く、スキルのルートも、文字通り木の根っこのように複雑だ。


(うーん……トイレの進化ルートがたくさんあるなぁ。自分で言っておいて何だけど、トイレの進化が豊富ってなんだろう。歩いたりするのかな?)


 女神ならやりかねない。

 そんなことを考えながら、東都はスキルを探っていく。


 バスユニットは10TPから追加できるようだ。

 しかし、そのあとの強化は10~50と幅がある。

 多いものでは、100TPを必要とする機能もあった。


(ふむふむ……必要となるTPが高くなる法則が全然わからないけど、トイレの基本機能から外れると、TPコストがバカ高くなる感じかな?)


 スキルツリーを調べると、お風呂周りの拡張機能はやたらに充実していた。


 ジャグジーはもちろん、打たせ湯機能、マッサージ機能、自動清掃機能、なんとお湯の滝を作る機能までつけられるようだ。


 しかし、いま東都が求めているのはただのお風呂だ。

 これらの設備は明らかにオーバースペックだ。


(今ってこんな機能もあるんだ。普通にちょっと使ってみたいけど、やりすぎだ。とても今あるTPじゃ足らないし、ここは基本機能だけでいいか……)


 お風呂ツリーの開始点には、基本となるスキル「バスユニット」がある。

 基本のためか消費TPは低く、10TPで機能を追加できるらしい。


 東都は迷わずボタンを押して、バスユニットのスキルを取得した。


(さて、これで何が起きる?)


 東都は修道院の風呂場に置いたトイレをじっと見る。

 しかし、とくに変化は無い。


 ドアを開いても中はトイレのままだ。


「あれ?」


「どうしました、トート様?」

「なにか問題でも?」


「あぁいや、ちょっと待ってください。」


(おかしいな。既存のトイレには影響しないのか? でもトイレットペーパーや暖房なんかは、すでに出していたトイレにも影響したよなぁ……まさか!)


 首を傾げていた東都はハッとなった。

 もしやと思った彼は、スキルツリーではなく、取得したスキルの欄を見る。


(く、やっぱりか……)


 彼が表示するスキル欄には「トイレ設置」の他にもう一つ。

 「バスユニット設置」というスキルがあった。


 しかもバスユニットの設置には、10TPが必要らしい。

 東都は設置にTPが必要となった初めての事態に動揺した。


(バスユニットはトイレとは別物で、設置にTPが必要となるとは思わなかったな……。まぁ、これまで好き勝手にトイレが置けたのがおかしいけど。)


 ここでさらに東都はある可能性に気づいた。


(トイレの強化も考えものじゃないか? 基本機能以外に高級な機能を追加したトイレは、設置にTPが必要になるかも。それに補充のTPもバカにならない)


 現在トイレットペーパーの補充には1TPを必要とする。

 これにもし、液体石鹸や芳香剤といったモノが加わったらどうなるだろう?


 補充と設置でTPを使い果たすかもしれない。

 安易な強化は、自分をかえって窮地に追い込むのでは?

 彼はそのことに気づいたのだ。


(強化は慎重にやるべきだな。トイレを置いても、維持コストがバカにならないとなると、僕のトイレもフンバルドルフみたいになるかもしれない。)


 トイレは一見無限のパワーに見えるが、TPという限りある資源を必要とする。


 もちろん、人がウンコする限り潰れない会社、T●T●と同じように、東都のトイレにウンコをする人がいる限り、TPは無限だ。


 しかし、東都のトイレが整備不良のために使われなくなればどうなるか。

 維持費がTPの収入を上回って、糞詰まり、いやどん詰まりになる。


(……そうならないようにしないとな)


 決意を新たに東都は拳を握りしめる。

 健康的で文化的なトイレ生活は、東都のバランス感覚にかかっているのだ。


「トート殿、深刻な顔をなさって……どうされました?」


「ああいえ、大丈夫です。いま魔法を使いますので」


 心配そうな顔で覗き込んできた伯爵に気丈に振る舞ったトートは、いつものように手を振り、スキルを唱えた。


「――バスユニット設置!!」



ーーーーーー

トイレ設置(LV10)消費TP0

バスユニット設置(LV1)消費TP10

補充(LV1)消費TP1


TP 35ー20=15


『暖房』(通常の暖房から、金属溶融の2000℃まで可能)

『抗菌』

『除菌』

『消臭』

『ウォシュレット』

『◯姫』

『威力アップ』(威力を上げます)

『速度アップ』(速度を上げます)

『防御アップ』(外部からの攻撃を防ぎます)

『耐久アップ』(力が強くなります)

ーーーーーー



※作者コメント※

普通なら強い敵とか、世界の脅威に危機感を感じるんだけど……

危機感の感じ所、それでいいのか?!

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