トイレ強化


「トイレの強化か……」


 気を取り直した東都は、トイレ強化で一体何が出来るのか、確かめてみることにした。彼は自分のステータスウィンドウを開き、書かれている文字を見る。


 空中に浮いた半透明の窓には「ステータス、スキル、装備、アイテム、システム」と書いてあった。


「トイレの強化っていうくらいだから、スキルかな? でも、さっきはトイレ設置(LV1)しかなかったよなぁ……」


 東都はスキルの欄を押して、そこに書かれているものを見てみる。すると、先程までスキルの名前しか書かれていなかった部分がガラッと変わっていた。


「お、ぉぉ? 何かスキルのUIが本格的なことになってる。あの女神、ひょっとして結構なゲーマーなんじゃ……?」


 さきほど東都が見た「トイレ設置スキル」の画面は、スキルの名前がぽつんと書かれているだけの、かなり殺風景な状況だった。しかし、今はトイレ設置からいくつかの線が伸び、その先に「洗浄強化」「消臭」と言った文字が書かれている。


 どうやら、トイレを強化することの他、新しいスキルも入手できるようだった。


「おお……これはテンションあがるな~!」


 スキルのウインドウの右上には小さく100TPと書かれている。

 このポイントを使って強化ができるようだ。


「う~ん……こういうのは必要に応じて強化するべきだと思うけど、ゲームの定石から言うと、経験値アップとか、単純な威力アップをとるべきだよね」


(自分で言っておいて何だけど、トイレの威力アップって何?……消臭力とか?)


「でもその前に、トイレとしての基本機能を充実させるのが先かな?」


 東都が設置して使ったトイレは、清潔には違いない。だが、それだけだ。


 ウォシュレットの機能はもとより、消臭、便座暖房といった、現代のトイレにおいてほぼ必須とも言える標準機能もついていなかった。


「そうだな……まず『抗菌』『消臭』と『ウォシュレット』を付けよう。これだけでもだいぶ快適なはずだ」


 東都はそれぞれ取得するスキルを選ぶ。

 それぞれ10TP消費した。


 東都がスキルの取得を選ぶと、トイレが白く光りだし、次の瞬間にはウォシュレットと消臭用のボタンがトイレの脇に現れていた。


「すごい……! これなら異世界でも、元の世界と変わらずウ●コができる!」


(実際このスキル、かなり優秀なんじゃないだろうか。この異世界が中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジー世界なら、清潔に過ごせるってだけで、快適さがだいぶ変わってくるはずだ)


 東都は考えはそう間違ったものではない。彼が転生した世界は、現実世界でみると、おおよそ17世紀の中央ヨーロッパに相当する技術と文化を持っている。


 中世というには少し近代に寄っているが、それでも衛生的な技術はまだ未発達だ。この世界は増加し続ける人口に対して、命を守る方法、すなわち医療や衛生技術は、銃などの「人を殺す技術」に比べると、まるで追いついていなかった。


 それは一体なぜだろう?


 東都が来たこの異世界では、人が病になる理由は悪魔のせいだとか、その人が悪いことをしたからだとか、そういった風に信じられている。


 そして、この考えがとんでもないことを引き起こす事になる。


 というのも、病気になるのはその人が悪いことをしたから。つまり、病人=悪人となる。すると病はその人の自業自得だと思われて、誰も助けようとしなくなる。


 貧しい人も同じで、清潔な水や食べ物や服が得られないのは、その人に能力がないからだとして、誰も助けようとしなかった。


 人々が助け合わないと、病気はどんどん広がっていってしまう。病気は悪人だけに起こるものではないのに、この世界の人々は。病気になるのは悪人か、神罰を受けた人と信じていた。なので病人を助けるなんて事は、考えつきもしなかったのだ。


 東都のような現代人からすると「正気か!?」と思う考えだ。

 しかし、これがこの異世界の常識だった。


「病気は悪魔や神の罰ではなく、細菌やウイルスという小さな生き物が体に入るから起きるものである。そして清潔な水や食べ物や服を使うと、細菌やウイルスが体に入りにくくなる。そもそも、病気や貧しさはその人のせいではなくて、色々な事情がある。だから人々は、健康であるために互いが助け合うべきだ。」


 これが東都たちの常識だ。しかし、このように考えるようになったのは、彼の世界でも18世紀の末ごろからだ。


 その時代には科学が発展して、病気の原因や予防法が分かるようになっていた。そして、人々が健康であり続けるために協力する「公衆衛生」と言う概念が生まれた。


 しかし――この世界ではまだその考えがなかった。


「そうだな~、一応『抗菌』と『除菌』も取っておくか」


 東都はこの世界を変えるだろう。

 そしてそれは彼自身、そして女神ですら(アホだから)まだ気づいていなかった。










※作者コメント※

シリアスなのかギャグなのかわからん…

ハッ、尻アスって……コトォ!?

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