はじめてのスキル
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「ここ……どこ!?」
光から目が覚めた東都は、自分の周りを見渡した。
彼がいるのは鬱蒼とした森の中で、視界は木々に埋め尽くされていた。
「森……?」
<ギュルルルルル……>
「はうぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
(そういえば僕はトイレに行きたかったんだった!!!)
彼の腸から外界への出口であるゴールポストには大変なプレッシャーが掛かっている。人間の尊厳を守るために、彼は必死に尻に力を入れているが、すでに限界を迎えようとしていた。彼の体内では黒く太い破城鎚が門を叩きつづけ、扉にかかったかんぬきは壊れる寸前になっている。
(もはや限界だ。一刻も早く、トイレに入らないと!!!!)
「……ここは森。しかし、野グソは駄目だ!」
東都は、何かの話で「野グソは軽犯罪法違反になる」と聞いたことがあった。
女神の話を信じるのならば、ここは異世界であるらしい。
しかし、異世界といえども同じ人間が住んでいるのなら、今から彼がする野グソに対して、厳格なルールがある可能性がある。
野グソをしたら死刑。そんな事も十分有り得る。
人気のない森の中とはいえ、ここでフルバーストするのは危険な行為だ。
「そうだ……トイレを出すスキルをもらったんだった!!」
(そうだ、つい猛烈な便意によって忘れていたが、僕はどこでもトイレが出せる!)
トイレがあれば、すべての問題が解決する。が――
「……で、どうするんだろう」
東都は「トイレを出す」というスキルをもらったはいいが、その使い方までは聞いていなかった。東都は中途半端な仕事をした女神に対して、声にならない声で呪詛をを吐いた。
(女神の野郎、中途半端な仕事しやがって!!!)
「どうすれば……どうすれば良いんだッ!?」
その時、東都の脳裏に電流が走った。
(そうだ、ラノベやアニメでは、「ステータス」を開けたはず! きっとトイレを出すスキルはそこにあるはずだ!!)
人間は排便を我慢すると、交感神経が優位になり、脳からアドレナリンが分泌される。その結果、一時的に運動能力と知能指数が劇的に向上するのだ。
排便を我慢することによる人間の知能指数向上は、就寝時のそれと比べると計算不能なレベルにまで向上するという。これは東アジア某国に存在する東塔大学による研究によって発見された科学的事実に裏付けられている。一切のご都合主義ではない。
東塔大学出版刊『天才になりたければ、我慢が大事!』より。
「ステータスオープン!!」
<ブォン……ッ!!>
東都の推測は正しかった。
彼がステータスオープンと叫ぶと、空中に半透明の板が浮き上がった。
そこにはステータス、スキル、装備、アイテム、システム、といった文字列が並んでいる。そして、それらの文字を東都の指で直接触れることで、この板を操作できるようだった。
(これは……スマホと似た感じで使えるって事かな?)
東都は早速スキルを押して、そこにあるものを見てみることにした。
するとそこには、「トイレ設置(LV1)」という文字があった。
(なるほど、これがトイレを出現させるスキルか……ッ!)
「トイレ設置!!!!!!!!!」
<ズドンッ!!!!!>
東都がスキルの欄に描かれていた文字を読み上げる。
すると、暗い森の中に純白のトイレが現れた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」
ついに待ち望んだ存在、トイレを目の前にした東都。
彼は森中に響き渡る咆哮をあげると、トイレの中に突撃した。
<バッタン!!!>
幸いなことにトイレは洋式だった。
東都はできるだけ『門』を刺激しないように、神に使える神官が荘厳な儀式を執り行うかのように便器に静かに座る。そして、ありのままに全てを開放した。
(ふうううううううう~~~~~~!!!!!)
「た、助かった~……」
どっと力が抜けたように、便器の上で背中を曲げる東都。
便意を我慢することによる「アドレナリン・ラッシュ」は、確かに運動神経と知能指数を大幅に向上させるが身体に対する負担が大きい。
彼が便意を我慢していたのは、ほんの10数分のことだった。
だが、彼にはそれが数時間の出来事のように感じられていた。
(おや……?)
彼はステータスの下に並んでいる数字を見る。
するとそこに書かれている「便意」の横の数字がみるみるうちに下がっていく。
全くそうする意味と原理は分からないが、どうやら東都は「便意」を数値として見ることが出来るようになっているらしい。
(女神……何考えてんだ?!)
<おめでとうございます。貴方のトイレが使われたことで、TPを取得しました>
「えっ、なにそれ?」
トイレに座っている東都に、頭の中から響くような声がする。
その声は東都の疑問には応えず、一方的な説明を始めた。
<TPとはトイレポイントの略です。TPは貴方が設置するトイレを強化することができます。TPは貴方が設置したトイレが使われることで入手できます。>
(この声、どう聞いてもあの女神のだけど……自動音声再生みたいな感じだ。)
<しかし、あまりにもくだらねぇスキルのため女神の力が余りまくって……ごほん。あまりにも素晴らしいので今回はお試しのために100TPを授けましょう。あなたのトイレを貴方好みに強くしてあげて――ごめんもうムリ、何あなた好みに強化ってwwwwwくそ、ツボにはまっwwwwwくそわろたwwwww>
「完全に遊んでんじゃね―か!!! チクショォォォォォ!!!!!」
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