ウェンディゴの正体
「旦那、ウェンディゴはこいつの他にも、別にいるってのか?」
「はい。ホラレーさんは背後から右の肩から切られたと言っていました。左手を使ってそれをするのは不自然です」
「確かに……左手で右肩を切りつけようとすると、つらい動きになりますからね」
「腕を伸ばしたままのほうが力が入るものね。右手で切りつけるほうが自然だわ」
「そういうことです。ウェンディゴは少なくとももう1人いるはずです」
「うンむ……それならリスミードの小屋を調べてみるか」
「はい。小屋に向かいましょう」
「ですがトート様、このオークはどうしましょう?」
「でぇじょぶだ。手の空いてる連中に任せるべ」
オーランはそういって指で輪を作り口に当てて口笛を吹いた。
すると、どこからともなく黒い服と覆面をしたオークたちが現れ、気絶したリスミードを運んでいった。
(なぜ異世界に
「なんか黒いオークたちが運んでいったわね……」
「あれは……ブラックハンズですね」
「おう、人間にしちゃよく知ってンな」
「エルさんはあれが何か知ってるんですか」
「はい。あれはブラックハンズというオークの密偵です。敵前逃亡や同族殺しなど、不名誉な事件を起こしたオークを処罰するのが役目とか」
「えーっと、警察とスパイが一緒になった感じ?」
「はい、だいたいそんな感じですね」
「うンむ。あいつらに任せとけば間違いはねぇ」
(オークの文化がよくわからない……まぁ、それはいまさらか)
東都たちはクレーターを後にして、村外れに向かった。
村と氷河の境界の近い小屋は、村の中央より深い雪に覆われていた。
村外れはひっそりとしている。東都たちの足が雪を踏みしめる、ザクザクという音だけが白い闇に
「おう、ここだ」
とある小屋の前でオーランが雪をかき分けるのをやめた。
どうやら一行は目的とする場所についたらしい。
目の前の小屋の見た目は、他の小屋と大差ない。
小屋は雪に埋もれ、地面に積もった雪が屋根まで達していた。
トイレを設置して回っていた時、他の小屋はここまで雪が積もっていなかった。
ここの住人はほとんど雪かきをしていないのだろうか。
東都は小屋の前で聞き耳を立ててみる。だが、何の音も聞こえない。しんしんと積もる雪が音を吸い込み、痛いほどの静寂がこの場に満ちているというのに。
「とりあえず入ってみましょう」
「おう」
戸に力をかけると、「ぎぃ」と嫌な音を立てて開く。
小屋の中に明かりはなく、真っ暗だ。
闇の中には、外と変わらぬ冷たい空気が満ちていた。
「誰もいないのかな?」
東都が小屋に足を一歩踏み入れた時だった。
彼はオーランに首の後ろを掴まれて、ぐいっと後ろに引っ張られた!
「なっ?!」
<ガチィン!!!>
何事か、そう思ったその瞬間、東都の目の前で火花が散る。
暗闇から金属のツメが振り下ろされ、彼の足元にあったのだ!!
「わわわっ!」
「このヤロウっ!」
オーランが暗闇に肩から突進し、ぶちかましを食らわした。
すると闇の中から短い悲鳴が聞こえた。
「こっちにきやがれ」
オーランが引っ張り出して来たのは、黒いローブを着たオークだ。
そして彼の腕を見ると、右手にツメを模したガントレットがついていた。
どうやら彼が2体目のウェンディゴのようだ。
「トート様、どうやら彼がホラレーさんを襲った犯人のようですね」
「そのようですね。右手のツメをつけていますし。しかしこのローブ……」
東都はオークが着ているローブに見覚えがあった。
フンバルドルフで出会った
「あなたも
東都はしゃがみこんで、オークの顔をのぞき込みながら尋ねた。
(このオーク、仮面をつけていないな。フンバルドルフの背教者は仮面をつけていたけど……。もしかして、あの仮面って特別なものなのかな?)
「だと言ったらどうする?」
「ン~、質問に質問で返すとはいい度胸だべ」
オーランは、お決まりセリフを言ったオークを締め上げる。
その効果はバツグンのようだ。
捕まったオークは情けない悲鳴をあげて許しを
「アイダダアダ!!! わかった、いう、いうだよ!」
「最初からそうすればいいべ」
「イデデ……そうだ、まちげぇねぇ。おいらは黒いローブを着た連中にウェンディゴのフリをして村の中で暴れまわるように言われただ」
(やっぱりか。ウェンディゴの背後には、背教者がいたのか)
「そのローブの男は赤い仮面をつけていましたか?」
「あ、あぁ……」
「あなたにそうさせた背教者の目的はなんです。ウェンディゴのフリをさせてまでして、何をしたかったんです」
「……」
「思い出せるように、もっと活をいれてやるべか?」
「おいらがこんなことをしたのは、オークが誇りを失ったからだべ」
「なンだとぅ?」
「考えても見るべ。こんな氷と雪ばっかりのところに閉じ込められて、戦もせんで魚ばかりとって……じいさんのじいさんの頃は、そうじゃなかったべ」
「あなたはオークの――今の生活に不満があったと?」
「ンだ。オラたちの祖先が帝国におった頃は戦ばして名を挙げてたべ。こんな氷ばっかりのトコで閉じこもって、なンになるっていうだ」
「ウェンディゴの呪いはオークが戦いを捨てたから。あなたはウェンディゴの呪いを再現することで、この村を戦いに駆り出そうとしたんですね?」
「んだ。そうすればまた昔みたいにオークはデカくて悪イ、どえりゃぁ連中って知らしめることができるべ。それが本当のオークってもンだべ」
「オメェはわかってねぇぞ。オラたちがここに落ち着いたんは、精霊の導きだぁ。まっとうに働いてりゃ、戦で矢や槍が刺さって死ぬこともねぇべ。」
「臆病もンが!」
「なンだとぉ? コソコソ隠れて闇討ちしてたおめぇが何をいうだ」
「……」
(オーランさんの正論で、ぐうの音も出ないか。黒幕はやっぱり背教者だったか)
「これでは平行線ですね」
「問題の原因がオークの矜持にあるとなると、これ以上は彼らの問題ですわね」
「えぇ、これはオークの問題です。人間の僕たちがとやかく言っても意味がないでしょう。本当の意味で解決するなら、彼らの手でしないと……」
東都たちがそう言っている間も、オーランと背教者の口論は続いている。
「ウェンディゴになったのはオイラじゃねぇ。おめぇたちだ」
「はっ、つぎはそう来たか」
「オークの誇りを食いつぶしてヘラヘラして、何がオークだ。オイラに言わせりゃ、おめぇたちが本当の怪物だべ」
「チッ……」
「オークを元の姿に戻したかった……彼はそこを背教者に利用されたんでしょう」
「気持ちはわからンでもねぇ。だけンども、そのためにホラレーを襲ったおめぇは間違っちょる。頭を冷やすんだな。幸い、雪と氷には困らねぇからな」
「……へっ、なら逆をするまでよ」
(……逆?)
背教者は不敵に笑う。その邪悪な笑みの意味はすぐにわかった。小屋の外からほら貝を鳴らす音が聞こえ、小屋の中に息を切らせた「黒の手」のオークが
「オーラン、襲撃だ!! 海岸からすげぇ数のサハギンが上がってきた!!」
「「「なんだって?!」」」
「攻めねぇなら……攻めさせるまでよ」
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※作者コメント※
パルワールドが良すぎてあれをネタにして書けないか考え中。
モンスターで領地開拓は鉄板ネタ。
ただそのままやっても面白くない。なにか一捻りが欲しいところ。
追放、実況、悪役、TS、VRMMO、現代、戦記、魔王、オッサン。
うーむ……あ、トイレはなしで。
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