異世界D-DAY(1)

「サハギンの襲撃……あいつらか!」


「トートの旦那は連中のコトを知ってるンか?」


「はい。オーランさんと出会った時に言ったと思いますが、僕らがこの黒曜氷河に遭難した原因はあいつらです」


「おお! そういえばそンなことを言ってたべ。」


「トート様、サハギンたちは何故ここに……?」


「私たちを追いかけてきたのかしら?」


「うーん……わかりません。そもそも背教者は彼らの神を信じない人たちを目の敵にしてます。最初からオークを襲うつもりで、僕らがいたのはただの偶然かも」


「まぁどっちでもいいべ。向こうがその気なら、追い返すだけだぁ」


 オーランはそう言って笑い、黒の手ブラックハンズのオークに戦いの用意をするよう伝えた。


 オーランたちオークは、背教者に臆病者と言われていた。

 だが、彼らは別に戦いを避けようとはしていない。

 それがふと気になって、東都はオーランに疑問を投げかけた。


「あの、オーランさん……オークの人たちは戦いを避けるためにこの氷河に住んでいるんじゃないんですか? 無理に戦わなくても、僕たちで――」


「そいつぁ違げぇ。旦那の思い違いだべ」


「うん?」


「オラたちのじいさんのじいさんは、精霊サマに導かれてこのクソ寒い氷河にやってきた。だども、戦いがイヤでそうしたわけでねぇ。じいさまがイヤだったのは、他人の戦いに引っ張り込まれたことよ」


「他人の戦いに?」


「おうよ。オークが帝国にいた時分にゃあ、オラたちに関係ねぇことで世界中を引き回されて戦わされてただ。何だかんだと理屈をこねて、血を流すことを良しとしてたのよ。それがオークの誇りだ何だってなぁ」


「待ってください、だとすると――」

「オークの誇りとやらは、都合よく作り出されたもの。そうなるわね」


 オーランはうなずいて続ける。


「だども、帝国はバラバラになっただ。したら、どうなるとおもう」


「えっと……帝国がバラバラになった後って、内乱が起きたんでしたっけ?」


「そうですね。古代ベンデル帝国は東西に別れ、各地で武力を使った小競り合いが多発したはずです」


「んだ。何も信じられなくなったオークは、誇りを口にする連中にそそのかされて、仲間同士で殺し合うようになっちまっただ。精霊サマはそんなオラたちを見かねて、じいさんのじいさんをこの黒曜氷河に連れてきたのよ」


「そんな歴史があったんですね……」


「んだ。誇りだなんだっていってもよぅ……テメェを良く見せようとしただけだ。そんなことで背伸びしてもくたびれるだけだぁ。つま先が疲れていつかすっ転ぶ。そこに転がってるヤツを見ればわかんべ」


「……ぐっ」


 オーランは黒の手に拘束されている背教者を指差した。

 背教者は何ごとか言い返そうとしているが、音にはならない。


 それはそうだろう。彼が頼りにしていたオークの誇りは作り物。

 与えられたものだったのだから。


「オークの誇りは作り物だった……か」


「おう。だども、オラたちオークに誇りが無ぇってわけじゃねぇぞ」


「え?」


「オークは帝国ができるずーっと前から戦働いくさばたらきしてたべ」


「あ、そっか」


「じいさんのじいさんと精霊サマが後悔したのは、オークの――オラたちの命運を他人に任せちまったことよ。オラたちがオラたちのために戦うことは、何も曲がったことじゃねぇ。背教者も何も関係ねぇ!」


「……」


 小屋の外から金属がガチャガチャと打ち合うような音がして、近づいてくる。

 東都が振り返ると、両手いっぱいに大きな武器を抱えたオークが小屋の入り口に立っていた。


 彼の抱えている武器は、どれもメチャクチャに大きい。

 大剣ひとつとっても、剣身が東都の身長くらいあった。


 東都が武器の大きさに驚いていると、オークは黒曜石の剣を差し出してきた。


「えっ、そんなの使えませんよ!」


「旦那じゃねぇ。ほれオーラン、おめのだんびら・・・・さもってきたぞ」


「おう、あんがとな」


「あ、流石にそうですよね」


 どうもこのオークは、集落のオークたちに武器を配って歩いていたらしい。

 オーランは黒石の大剣を受け取って、広い背中に収めた。


「まぁ難しいことは後だ。確かなのは、オラ達はサハギン共に攻められて、氷河を逃げ回ったりはしねぇってことよ」


「……」


「背教者だかなんだか知らねぇが、おめぇの言いなりになったわけじゃねぇ。オラたちはオラたちのために戦う。本当の誇りっちうモンを見せちゃる」


「「おう!!!」」


 オーランの力強い言葉に、黒の手と武器を配っていたオークが同意する。

 東都はそんな彼らの輪に近づいて、こう提案した。


「オーランさん、僕たちにも協力させてください。こうなったのも、僕たちに全く非がないというわけではありませんから。」


「私からもお願いします。私も帝国の民としてオークの今に責任がないわけではない。罪滅ぼしではないですが、共に剣を振るわせてください」


「おう。その意気は買うべ。いくぞ!!」


「はい!!」


 東都とオークたちは小屋を飛び出し、サハギンが現れたという海岸に向かう。

 白い闇は少し明るくなり、地平線の向こうに太陽が顔を出し始めていた。




※作者コメント※

次回、血戦。

無垢なる雪原に咲く赤い花はどちらのものか

こうご期待。

(作者はまだシリアスの死を認めてない模様)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る