闇でうごめく者(背教者サイド)

 深い闇の中で「ぴちょん」と、しずくの落ちる音が響く。

 ここはどこなのだろうか。


 黄褐色きかっしょくの土壁が、ロウソクのかぼそい明かりで浮かび上がっている。

 窓はない。どうやらここは地下室のようだ。


 この場所唯一の光源は、古ぼけた木のテーブルの上にある。

 そのテーブルの両端には、人影があった。


 一方は、赤い仮面の背教者。

 もう一方には、目深にフードを被った黒衣の隠者。


「くっ、ヤツがあそこまで成長しているとは……」


 赤い仮面の背教者が毒づいてテーブルを叩く。

 すると、彼の反対側にいた隠者がくつくつと笑った。


「必ず勝てるはずではなかったのかね? 」


「くっ……」


「君に貸したナガフネは稀代の名槍だった。鎧も、盾もおなじく一級品だ。それを無数に複製し、大地を埋め尽くさんばかりの軍勢を用意した――が、負けた」


「言っただろう。ヤツは予想を越えているんだ」


「ほう?」


「あの転生者……トートの成長速度と加護の応用力は異常だ。戦闘系の加護でもないのに、大量破壊を可能にしている。たかがトイレを出すだけの能力で……」


「その『たかが』に負けたのだ。認識を改めねばなるまい」


「……そうだな」


「さて、我らの宿敵である女神――その下僕たるトートはエルフの国にいる。転生者の影響を色濃く受けたエルフの国は、黒曜氷河よりも攻めるのが難しい」


「普通に考えれば……な」


「フッ――」


 黒衣の男はフードを脱いだ。

 フードの下には黒い仮面。その左右には長い耳があった。


「君たちエルフの協力があれば、トートは確実に討ち果たせるはずだ。もちろん協力してくれるね?」


「無論だ。だが……勘違いするなよ」


「ほう?」


「我々が協力する理由は、女神教がエルフにとって好ましからざる存在だからだ。背教者に協力しているのは、ただこの一点が共通しているからにすぎん」


「わかってるよ」


「わかっている、か。お前たち背教者が、女神教と同じように好ましからざる存在になったら……。 その時のことも理解しているのだろうな?」


「僕を脅かすつもりかい? まったく、大したタマだね」


「フン……当然だろう」


「女神教の何がそこまで気に入らないんだい? 君たちエルフの国は、転生者の力でここまで発展したんじゃないか」


「これは異なことを言う。背教者が女神の肩を持つのか?」


「そうじゃないよ。女神教を廃した後は、ふるきものがこの世界を治める。その時になって、僕は君たちに対して同じ間違いをしたくないんだよ」


「本当にそれだけか?」


「ま、個人的な興味がないっていうとウソになるけど」


「ハッ……転生者が作ったあの建物を見ればわかるだろう」


「あぁ、あれなぁ……」


「転生者の作る建物ってさぁ……。派手なデザインのわりにはどれも同じような感じで、街で歩いてると、めっちゃ道に迷うんだよね」


「あぁ~……」


「鍛冶屋とか料理屋はやたら種類があるのに、普通の家は3種類くらいしかパターンがなくて、間違って他人の家に入るやつがめっちゃ多いのよ」


「フツーに支障がでてる……」


「うん。転生者が作った建物ってなんか妙に大きくて使いづらいし……」


「そういえばエルフの街って妙に造りが大きくて思わせぶりだったな」


「大きいだけじゃないぞ。家具や階段、ドアなんかもツンツンのデザインをしているだろ? あれのせいで刺したり切ったりで生傷が絶えん。」


「使いづらいだけじゃなくって、実害もあるのかよ……」


「我々が女神教を憎む理由。それがわかったか?」


「うん、すっごいわかった。正直すまないと思っている。あんな街に住むとか、お前たちの正気を疑ってた。そりゃだれだって変だって思うよな」


「まぁ、正気じゃ暮らしておれんからな……」


 なぜここまでエルフたちに転生者のつくる建築物の評判が悪いのか。

 それには技術的な理由があった。


 エルフの国にやってきた転生者。彼が再現したのは、PSペイエス1時代のレトロゲームの世界だったのだ!!


 PSペイエス1時代の3D技術は、現代に比べると未熟なものだった。

 建物に限らず、草木や動物、人間に至るまで、ありとあらゆるモノが角ばっていた。それはもう殺人的なカクカク具合だったのだ!!!


 転生者はそれをそのまま再現した。それによってエルフの国はアンチ人体工学を体現する、「試されすぎる大地」となったのだった……。


「しかし背教者よ、トートやらをどうやって排除する? やつは正式な使節としてエルフの国にやってきている。直接排除したら人間との外交問題になるぞ」


「陰謀を企んでるのに、えらい常識的な判断をするな……」


「常識ってなんだろうね」


「急に正気に戻るな。僕も自信がなくなってくるな。この世界自体、常識があってないようなものだからなぁ……転生者がどいつも非常識すぎるんだ」


「それには同感だ。しかし背教者とやら、だいそれた陰謀を考えてるくせに、神経は小市民のそれだな」


「あれこれ好き勝手していった転生者みたいに、もっと大胆に慣れたら……。僕の人生、もっと楽しかったかもしれない」


 背教者はちょっとしんみりしていた。

 ぶっちゃけ、これまで彼が立案した作戦は、どれもそう悪いものではない。

 失敗の原因は、東都が出すトイレがぶっ飛びすぎていたせいだ。


「ただ陰謀を企んでいるだけなのに……何でこんな目に合ってるんだろう」


「陰謀を企んでるせいじゃないですかね?」


「ま、まぁ、とにかく説明しよう。僕の計画はこうだ――」


 闇の中でうごめく背教者たち。

 果たして東都はこの邪悪な陰謀に打ち勝てるのだろうか……。



※作者コメント※

普通に陰謀してるのにフラグにしか見えねぇ…

あと今回の件、0:100で転生者側のやらかしでは????

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