エルフの国へ

「しかし……エルフの国へ行くための手段がないですね」


 東都の言葉に騎士たちがうなずく。

 エルフの国に問題があるのがわかっても、そこまで行く方法がない。

 ティナティックTINATIC号はサハギンの襲撃を受け、すでに海の底にある。

 まさか氷河を泳いでエルフの国まで行くわけにも行かない。

 3人は腕を組んでうなるしかなかった。


「なんだおめたち、エルフの国さ行きてぇのか?」


「はい、元々僕たちはエルフの国にいくつもりでしたので……」


「ふぅーむ、できんこともねぇかもしれねぇべ」


「本当ですか!?」


「オークの方々は、海の国まで行ける船をお持ちなのですか?」


「うんにゃ。オラたちの船じゃぁ、エルフの海ン国は行けねぇ」


「うん? それはできないってことじゃ……」


「ガハハ、話は最後まで聞くべ。たしかにオラたちの船じゃ行けねぇ。だども、エルフの国はちがうべ。耳長はデッケェ船でやってきて、オラたちが取った真珠やら干物やらを買ってくだ。連中の船に乗ってけばよかンべ」


「あっ、なるほど!」


「海の国の交易船に同乗ですか。なるほど。それなら確実にたどり着けますね」


「耳長たちは氷河の小島に交易所を作って、そこに船をつないどるべ。旦那の用意が良ければ、すぐにでも海の国にいけるべ」


「オーランさん、そこまで連れてってもらうことってできます?」


「おう。旦那は村を救った英雄だべ。これくらいどうってことねぇべ」


「ありがとうございます!」


 その後、オーランは帝国で背教者との戦いが起こった際、手を貸すことを約束してくれたうえに、彼らをエルフの交易所がある小島に連れていってくれた。


 オークが漁に使う小舟に乗り、東都たちは南へ向かう。

 海上を進み続け、日が少し傾いた頃。ようやく交易所が見えてきた。


 小島にある交易所はかなり立派だ。

 大きな帆船がいくつも停泊している桟橋には木造のクレーンがあり、島の岩礁には灯台まで作られている。ちょっとした港町といった雰囲気だ。


 そして島の中央には、島全体を見下ろせる塔がある。


 塔の建築様式は、東都がこれまで見てきたどの建物とも異なっていた。

 オークは素朴、帝国は頑強という感じだったが、エルフのそれは「華麗」だ。


 塔には、鳥の翼をかたどった、巨大な彫刻がついている。

 その大きさと言ったら、塔の半分はあるだろうか。


 エルフの建物の姿かたちは、帝国とも、オークとも、まるで類似性がない。

 だが、なぜかトートには既視感があった。

 彼はこのデザインの方向性が何かを知っている。


(うわぁ……中学生のデザインかな?)


 ――そう。エルフの建物のデザインは、感受性豊かな思春期の少年がするデザインのそれ・・を思わせるものだったのだ!!


「流石はエルフの建物だな。なんとも威厳のある造形だ」


「そうね。美しくも荘厳で……とても素晴らしいわね」


(え、あれってこの世界では、グッドデザイン扱いなの?!)


 どうやらこの異世界において、厨二病的デザインは市民権を得ているようだ。

 いやむしろ、人々の尊敬を受けるほどらしい。


(うーん……さすが異世界。文化が違う……)


 東都は不穏な空気を感じるが、今さら引き返すわけにもいかない。

 船の上で待っていると、オーランがオールをたくみに操って舟を桟橋につける。

 そうして桟橋に降りると、エルフのハーバーマスターが彼らを出迎えた。


「オークか。本日は取引の予定はなかったはず。何用か?」


「この人たちが海の国に行きてぇってンで、連れてきたんだべ」


「ふむ……?」


 ハーバーマスターは東都をしげしげと見つめる。

 その目はすこし怪しげなものをみるようだ。


 オークたちが「耳長」といっていたが、なるほど。

 たしかにエルフたちの耳は長い。

 彼らの身体的特徴は、ラノベやゲームに出てくるエルフそのものだ。


 高身長で色白、シミやソバカス一つ無い美しい肌。そして長い耳。

 美形でファッションモデルとみまごうスタイルの良さは、幻想的だ。

 そして、その格好も。


(うわぁ……いくら美形でも服が合わないってあるんだなぁ。)


 そう、エルフの服装も塔と同じく、中二感満載だった。

 やたらとがってゴテゴテしている服も大概だが、とりわけ目立つのは顔だ。

 ハーバーマスターは金属製の眼帯のようなマスクを左目につけている。

 眼帯は羽を模した形をしており、本来眼球がある部分には、赤い宝石がはめ込まれている。夕日を受けた宝石は、炎が燃え盛るようにきらめいていた。


(ああいう格好、ゲームで見る分には良いけどリアルで見るとキッツいなぁ)


「どうやらエルフの中でも、かなり高位の者ですね」


「そのようね。ミスリルの仮面ということは、貴族階級ね。エルフの言葉は私たちと同じ共通語だけど、身分が高いほど難しいと聞くわ。大丈夫かしら?」


(……なんだろう。すごく嫌な予感がする。)


「貴公らか?」


「アッハイ」


はるかなる海の禁域を渇望かつぼうする旅人たちよ、立ち去れ。なんじらには資格がない」


「はい?


「フ……汝らの理解など望んではおらぬ。人の子は知るに値しない。禁域は神々の選んだ聖なる地なのだから」


(おっとぉ……? これはもしかすると、もしかするかぁ???)


「えーっと、自己紹介がおくれましたね。僕はトートです。お名前をうかがってもよろしいですか?」


「ふん、ならば人の子に名乗ろう。我が名はシグルド。この交易所の全てを差配さはいする者の名だ」


(これ、絶対書く時は『†シグルド†』になるやつだ。ていうか、これで確信したぞ……! エルフの性格や態度がアレって、中二病セリフのせいだ!!!)


 東都の嫌な予感は的中した。

 エルフたちは、遺伝子レベルで中二病に染まっていたのだ!


(ふーむ……ここは「アレ」を試してみるか)


「エルさん、荷物に包帯ってありますか?」


「え? もちろんありますが、何にお使いになるんです」


「トート様、どこかお怪我けがでも?」


「怪我はこれからする感じですね。といっても、心の怪我ですけど」


「「???」」


 東都は困惑するエルから包帯を受け取り、それを右手に巻き付ける。

 そして XxシグルドxX の前に立った東都は右手を押さえて叫んだ。


「クッ、僕の右手に封印された暗黒の意志がっ! しずまれ……ッ!!」


 その刹那せつな、ハーバーマスターのかおに闇が差した。


「ほう、人の子にしては珍しい。地にせんとする運命にあらがうか」


いなわれは人の子にあらず。龍の血脈に連なる者也ものなり


(クッ痛い、なんて激痛だ!!! 全身から血を吹き出しそうだッ!!!)


 あまりの「痛さ」にリアルめの苦悶くもんの表情を見せる東都。

 しかしそれが真に迫って見えたのかもしれない。

 エルフのハーバーマスターは鷹揚おうようにうなずくと、東都に手を差し出した。


「この出会いに感謝を」


 ☆東都☆ と †シグルド† は、桟橋の上でガシッと握手を交わした。




※作者コメント※

地の文=サンもノリノリの言い回しである。

エルフは作者にも(ルビ振りがめんどくさくて)多大なダメージを与える

やべーやつらです。

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