ドワーフと紙
「ここに置けば良いHO~?」
「ウム。そこの中庭のすみに置いておけ」
伯爵が指図すると、ドワーフたちは言うとおりにトイレを置いた。
作業を終えたドワーフ達はニンマリと笑みを浮かべたかとおもうと、作業を見守っていた東都が首を出していた窓の下にずいっと寄ってきた。
「魔術師どの、ちょいと相談したいことがあるんだYO!」
「おう! 聞きたいことが山ほどあるんだZE!」
「は、はい?」
ドワーフ達は笑みを浮かべているが、眼が血走っている。
恐怖を感じた東都が後ずさると、コニーが変わりに前に出る。
「また『これを作れば儲かる』っていう類の、金儲けの話ですか?」
「あたりめぇYO!」
「こんなの放っておけるわけないZE!」
「ジャラジャラの臭いがするHO~!」
「はぁ……ドワーフたちの考えそうなことです」
「へ?」
「このトイレに使われてる素材、とんでもないYO!」
「カラカラについてる紙もだHO~!」
「このドワーフたち、トート様のトイレに興味をひかれたようでして……その製法を欲しがっているのです」
「あ、エルさんが生き返った」
「死んでません。」
「製法を教えろと言われましても……これは魔法で出しているモノなので、作るとかそういうものではないんですよ」
「じゃあ出し放題ってことかYO!!」
「それってヤバくないHO~?!」
(ん……どうなんだろう。たしかトイレットペーパーのスキル分類は『消耗品』だったよな? ――まさか!)
「ちょ、ちょっと失礼!」
東都はドアを開く。するとトイレのカラカラ。つまりトイレットペーパーのホルダーが空っぽになっていた。
(げ……もしかして、消耗品は毎回TPを使わないといけないのか)
どうもトイレットペーパーは自動的に補充されないらしい。
嫌な予感がした東都はスキル画面を見る。
すると彼のスキル画面には「トイレ設置」に続き、「消耗品補充」のボタンがあった。「補充」の横には消費TPが書かれており、それにはTPが1必要らしい。
(うーん、今はTPがないから確かめようがないけど……嫌な予感がする。きっとこれって個別に補充するんじゃないか? だとすると、10個のトイレに紙を補充したら10TPとなる……スキルをとるどころじゃなくなるなぁ)
「どうしましたトート様?」
「い、いや、なんでも……紙がないなって」
「あぁ、きっとドワーフたちが盗みましたね。――お前たち!」
「ヒッ!! 出来心だったんだYO!!」
「学術的興味HO~!」
「憧れは止められねぇんだZE!!」
「はぁ、まったく……」
叱り付けるエルに対して、ドワーフたちは土下座、開き直り、メモといった三者三様の反応を見せる。一部を除き、全く
「すいません。トイレを使う人が困るので、紙を戻してくれます?」
「作り方を教えてくれたら返してやらんこともないYO!」
「よし、家族に伝える遺言はそれで良いのか?」
「大変申し訳ありませんでしたYO!」
さすがのドワーフも、剣を抜いたエルの脅しに屈した。
フリントはしぶしぶトイレットペーパーをトイレに戻す。
しかしここで東都は何かを思いついたようだった。
(そういえば、ファンタジー小説なんかだと、ドワーフってだいたいプライドが高いよな。もしかしたら……やってみるか)
「ドワーフさんたち、紙の作り方がわかれば再現できますか?」
「たりめぇだZE!」
「ドワーフを甘く見ないでほしいHO~!」
「ここに現物があるのに、真似できないんですか?」
「「…………」」
「確かにこれは魔法で出してます。ですが、これの元になったのは、東の国に実在する紙です。東の国の人間は自分の頭で考え、自らの手を使って作りだしました。なのにドワーフたちは、教えられないと作れない、と?」
「「…………」」
「そもそもの話、僕が教えたとしても、まったく同じものができるとはかぎりません。水も草も道具も、東の国とまるで違うわけですからね。せめてそちらが何ができて何ができないのか、それを示してもらわないと」
東都はよどみなくしゃべり、ドワーフたちを挑発する。
彼らの長いヒゲからのぞく顔は、耳まで真っ赤になっていた。
「「……できらぁ!!!」」
「ムカッときたHO~!!」
「フリントよう、こんな侮辱を受けてまで、教えてもらうこたぁねぇZE!!」
「だな兄弟!! 寸分違わず――いや、これ以上の紙を作ってやるYO!!」
「もう後悔しても遅いHO~!」
「この青びょうたんの鼻を明かしてやるZE!!」
「「おう!!!」」
「おっと、忘れ物です」
東都はトイレにもどした紙をドワーフに渡そうとする。だが、ぷりぷり怒ったドワーフたちは、誰も彼の差し出すトイレットペーパーを受け取ろうとしなかった。
「ハッ!! そんなの一度見れば十分だYO!!」
「目で盗むHO~!」
そうしてフリントとその仲間たちは、怒りで湯気を上げながら、どたどたと港の方へ走り去っていった。
「ハハ、トート殿、うまいことドワーフたちをのせたな」
「ははは……まぁ」
(口からでまかせもしちゃったけど……思った以上にうまくいったなぁ。まぁ、現地で作ってくれる分には悪いことじゃないだろう。僕がいちいち補充するのは大変すぎるし)
「そういえばコニーさん、『また』っていってましたけど、ドワーフさんたちっていつもあんな感じなんですか?」
「そうですね。とはいえ彼らの嗅覚もバカになりませんけどね」
「というと?」
「はい。東の国から伝わってきた
(ん、爆竹? バクチクってあのバクチク? 火をつけるとパンパン鳴る?)
「爆竹って、火を付けると、派手な煙と音が出るあの爆竹ですか?」
「その爆竹です。東の国から伝わってきた爆竹をみたドワーフたちは、さっきのように『これは金になる!!』と大騒ぎして、あるものを作ったんです」
コニーはそういって腰に下げていた短銃に手をかける。
彼女の仕草に東都はピンときた。
「まさか、あるものって……」
「はい。『銃』です。」
「へ、へぇ……」
(ば、爆竹から銃? こ、これはもしかして……やらかしたかも?)
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※作者コメント※
何も教えずに丸投げしちゃったけど…
これ、かえって魔改造されて、何かとんでもないのがでてきそうな予感。
wkwk!
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