トイレは千里を行って千里を帰る(2)
東都たちはエルフの軍船に乗り、帝国を目指す。
さて、一方の帝国では何が起きているのだろうか。
視点をフンバルドルフの王宮、王の間に移すとしよう。
王の間は、人間が想像できうる限りの
壁には金や宝石で飾られた絵画や彫刻がずらりと並び、床には近東から取り寄せた金羊毛を織り込んだ絨毯が敷き詰められている。
床と壁がそうなら、天井も凄まじい。
ド派手かつ巨大なシャンデリアがぶら下がり、部屋全体を明るく照らしていた。
王の間の中央には、動物やモンスターを彫刻した大理石のテーブルがある。その上には、肉、果物、ワイン。世界中から集められた珍味が盛りだくさんに並んでいた。
その王の間で、ようやく帰還がかなった皇帝と王妃が抱き合っている。
コロリを生き延びた喜びを分かち合っているのか。いや――
「ふん……ようやくヤツを収めるべき場所に収められた……せいせいしたわい!」
「コロリといっしょに目の上のタンコブも消えてスッキリですわね~あ・な・た♡」
「おぉ、愛しのゲリーナ……ようやく君と一緒に街に帰れて嬉しいよ。チュ~♡」
「いやですわ、まだ昼ですの。激しく前後するにはお早いですのよ」
「そんなこと言わずに~ッ!」
ちちくりあっているだけだった。
コロリを避けるため、皇帝とその家族は別荘に避難していた。
しかし、ようやくフンバルドルフに帰還できたというのに、ブリードリヒ・モレル皇帝と王妃のゲリーナは、政務をそっちのけにして、ただ享楽にふけっている。
このモレル皇帝は、政治や勉強よりも、遊びに夢中になるタイプだ。
皇帝に能力など、なくても別に良かったのだ。
これはベンデル帝国の政治制度に原因があった。
ベンデル帝国の皇帝は、選挙で決まる。
選帝侯と呼ばれる、諸侯たちの合議によって皇帝が選出されるのだ。
しかし、選挙は形だけ。実際は持ち回りの世襲だった。
選挙原理が働くのは、戦争のときに皇帝が不在になった等の非常時だけ。
帝国を名乗っているが、王政と何ら変わらなかった。
たまたま今の時代に生まれたから、彼は皇帝になった。
彼が皇位につけた理由は、「機会に恵まれた」。
ただそれだけだった。
「コロリが収まったから、ゲリーナちゃんとずーっといられるもんね~♪」
「「ね~~~♫」」
「あのウォーシュとかいうジジイも、たまには役にたつな~」
「でも~、牢屋に入れちゃってよかったんですの?」
「はっは、問題ない。あのジジイがいなくなっても、コロリの対策はとれておる」
「あら、そうなんですの?」
「廷臣のエッヘンがいうには、コロリにはキレイな水が良いらしい。全く単純なことよ。ウォーシュでなくても、そのうちワシが気づいて対策しておっただろう」
「ね~♡ モレル陛下は地頭よくて、天才ですものね~」
「はっは~! 当たり前だろうゲリーナ。でも僕の脳みその計算能力は、君に捧げる愛の言葉を考え出すのに、99%の能力が使われてしまうんだな、これが」
「まぁ~♡ ステキ!」
「まったく、あのやかまし屋を牢屋にブチ込めてせいせいしたわい」
「あのおじいさん、陛下の政策に対していちいち『それはいけません』なんて言ってたものね。口うるさいったらなかったわ~♡」
「まったくな~。そんなに説教が好きなら、牢屋のネズミにでもしてればいい」
「牢屋でも説教させてあげるなんて、モレル陛下は慈悲深いのだわ~!」
「はっはっは! おおそうだ、覚えてるか? 教会の女神像をぶっ壊して、かわりにゲリーナちゃんの金の像を置こうとした時の話だ」
「もちろん覚えてますわ~! なんでダメになったんですの~?」
「あれはな~ウォーシュのクソクソバカジジイが止めたのだ。諸侯だけじゃなくて、教会のおえらいさんまで持ち出してきてのう」
「まぁ! みんなでモレル様をいじめるなんて、なんて可哀想なモレル様……」
「だろ~?」
「なでなでしてあげますね♡ なーで、なーで、ほらこんなに元気に♡」
「あぁ~、こんなにも頑張っているわしのことをわかってくれるのは、ゲリーナだけじゃ~♡ 心がビンビンするんじゃ~♡」
「まぁ! モレル様の心が天をつくばかりになってしまいましたわ♡」
「おっ、おぉ、そのまま……で、あの時ジジイがなんていったか、知ってるかい?」
「なんですの?」
「そんな無駄なことには使えませんだと。ゲリーナちゃんの美しさを讃える偉業が、無駄なことだと、あのクソジジイはそう言い放ったのだ!!!」
「まぁ! なんてひどい!!」
「ま、だからこれは正当な報いというやつだな~?」
「モレル陛下の言うとおりですわ~! 女神様は天から見守って、誰が本当に正しいことをしているのか、全部お見通しなのですわ~♡」
ベンデル帝国の皇帝は名ばかりで、大した権力を持たない。
敵国には諸侯と聖職者が議員として参加する帝国議会が存在する。
皇帝のモレルでさえ、議会を無視して勝手は出来ないのだ。
言い方を変えれば、どんな無能が皇帝になっても大丈夫。
そういうシステムでもあるわけだが……。
帝国議会がある限り、皇帝に勝手はできないはず。
なぜ今回に限ってウォーシュ伯爵を投獄できたのか。
それは、帝国議会に「抜け穴」があったからだ。
「いやしかし、あの賢者にはイイことを教えてもらったもんだわい。謀反の告発は、帝国議会の承認が不要とはな~!!!」
そう。皇帝には「謀反を告発する権利」がある。
これが唯一、皇帝が議会に対して行使できる権力だった。
「東ベンデルの皇帝の血筋だかなんだか知らんが、イキっておったからのう。相応の報いというやつじゃわい」
「こうなってしまえば、伯爵も冷たい牢屋の中で腐るだけですわ~♡」
「「ね~~~♫」」
「コロリ騒ぎで一時はどうなるかと思ったが、病は収まった。獣人の軍勢も追い払ったと聞くし、しばらくは何も起きはしまい」
「平和ですわ~! これもモレル陛下の統治のたまものですの~♡」
「うむ。これからはやりたいことがいーっぱいできるぞっ!」
「本当ですの~! じゃあ、私やりたいことがありますの~!」
「なんだい? ゲリーナちゃんの頼みだったら、な~んでも叶えちゃう!」
「今の兵隊さんの格好、可愛くないとおもいませんこと? ウサギさんの耳をつけたり、ふわふわのネコの尻尾をつけたらカワイイとおもいますの~!」
「おうおう、いいとも!」
「それと~パン屋さんとか可愛くないと思いますの。フンバルドルフのパン屋さんを、全部ケーキ屋さんにしませんこと?」
「なんて名案だ! それも採用!!」
「やった~ですの!」
「フフフ! もし何か言うやつがいれば、ぜ~んぶ謀反で牢屋にブチ込めばいいからな!!! わしの輝かしい皇帝ライフは、ココから始まる!!」
「「ね~~~♡」」
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※作者コメント※
こいつら小学校の社会と道徳の成績「1」だろ…
っていうキャラを出すのが一番楽しい。あると思います。
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