背後からの一刺し
「あのエルフは、
「わぁ、ずいぶん奮発したんですね」
「それだけ女神教に対するうらみが深かったということでしょう」
ホールに立つ東都は、エルから尋問の結果を聞いていた。
騒ぎの後、オールバックのエルフは衛兵に連行された。
そして尋問の結果、色々なことがわかったという。
オールバックの古老は以前から背教者と協力関係にあった。
背教者から資金を受け取り、見返りとして彼らの活動を見逃していたのだ。
エルフとサハギンは戦争状態にある。
しかし、戦いの状況はあまりよくなかった。
サハギンの根城を攻めに行っても、拠点はもぬけのから。
そうしたことがよくあったらしい。
古老たちは「部下たちの中にスパイがいるのでは?」と疑っていた。
だが、なんということはない。
裏切り者は、すぐ
背教者としては、笑いが止まらないだろう。
なんせ、金貨を複製すれば与えるための資金はいくらでも用意できる。
ほとんど
「あの人が背教者と出会ったきっかけはなんだったんです?」
「最初の出会いは、女神教に対する不満を共有する会合だったそうです」
「会合……秘密結社か何かですか?」
「いえ、ただのパーティです。女神教に対する不平不満があるエルフが集まって、お互いに生活の愚痴を言い合う。そういう会だそうです」
「あー……本当にお気楽なところから始まったんだ」
「そのようです。そこで彼は背教者に接触し、親しくなるうちに反女神教としての思想を強めていったのかと」
「最初はあのカチカチハウスに対する文句だったのが、世界に対する憎悪になり、次第に過激化していったってところかしら?」
「なんだかなぁ……それであんな事を?」
「彼が犯したのは、決して軽い罪ではありません。反逆罪ですから、恐らく――」
あのエルフは、背教者に武器を提供した。
それも、エルフの仇敵であるサハギンが使うと知りながら。
牢屋に入れられる程度ではすまないだろう。
恐ろしい最期を想像して、東都は身震いした。
「処刑、かぁ……」
「しかし、彼を放っておけば、処刑台に並んでいたのは逆に私たちだったかもしれません。元老院の方々も、折り合いをつけるしかないでしょう」
「なんといっても身内の不祥事ですもの。厳しい沙汰がくだるわね」
「はぁ……」
「トート様、どうされました?」
「僕たちは世界をまわって女神教の――いや、平和のために協力を呼びかけている。そのはずなのに、逆に世界に混乱と争いを広げている。そんな気がして……」
自分がやっていることは、背教者と同じ――
ついそんな想いが東都の頭をよぎったのだ。
「そんな事はありません!」
「そうですわ。トート様がこうして旅を始めなかったら、オークとエルフは、もっと悲惨な結末を迎えていたかもしれませんわ」
「でも、戦いを広めているのは確かです。僕と背教者はどこか似ている……」
「いいえ。それは断じて違います。トート様のトイレは皆を笑顔にしています! 争いと憎しみを世界に広げる背教者とは違います!」
「エルさん……」
「たしかに、致死率十割大森林でトイレを出された時は驚いたけど……今となっては良い思い出よね」
「はは、そうだな!! あの時のことと言ったら……」
「もう!」
「すみません、僕はどうかしてたみたいです」
東都はエルとコニーに感謝の言葉をささげ、握手を交わした。
この長い旅を通して、彼らの間にトイレを介して友情の絆が生まれていたのだ。
「女神教に問題がないとは言いません。ただ……背教者がやっていることは違う。それだけは確かです」
「えぇ。彼ら背教者が
「やっていることが、やっていることだものね」
「さて、トート様、ここからどうしましょうか?」
「うん……」
東都は腕を組み、考え込んだ。
サハギンがエルフの武器を使っていたという問題については解決した。
背教者と同調していた裏切り者を捕まえる事もできた。
トイレカーを材料に、エルフの協力を得るという当初の目的も達成した。
エルフの国でできることは、もうこれ以上何も無いはず。
――問題は全て解決した。
それなのに、まだ東都の胸に何か引っかかるものがあった。
「トート様、背教者の動きが気になりますか?」
「うん。やられっぱなしで背教者が諦めるとは思えない」
これまでは何かしらの反撃があった。
帝国では獣人たちの軍勢。黒曜氷河ではサハギンたちの上陸。
エルフの国であった反撃らしい反撃は、ただひとつ。
古老の「トイレが戦いの何の役に立つ」という正論だけだった。
あれを反撃というのは、あまりにも貧弱だ。
「これまで背教者がやってきたことを考えると、もっと大きな陰謀を用意しているはずだ。それが何かはわからないけど……」
「ふむ……」
黙考する東都たち。しかし、その静寂は突如として破られた。
元老院の扉をばんと押し開けて、何者かが入ってきたのだ。
「――ッ?!」
「ぜぇ……ぜぇ……! た、大変だ!!」
「貴方は――」
その人影に東都は見覚えがあった。
ウォーシュ伯爵の屋敷にいた召使のひとりだ。
召使の服はボロボロで、足は裸足で血がにじんでいる。
そのただならない様子に、東都たち一行に緊張が走った。
一体何があったというのか。
「トート様、よ、ようやく会えた……お伝えせねばならぬことがッ!」
「いったい何があったんです?」
「ウォーシュ伯爵が……閣下が――謀反の疑いで投獄されました!!」
「「なんだって?!」」
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※作者コメント※
まさかの急展開。
シリアスさんの背後からの一刺しだ!!
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