異世界D-DAY(3)
<ジャーン!><ジャーン!><ジャーン!>
サハギンたちが進撃の合図を出したのだ。
海面に浮かんでいた無数のヒレが海岸を目指して動く。
ほどなくして、水中にいたサハギンたちが東都の前に全身を現した。
「なっ、あいつら……前と違うぞ!」
「今回は完全武装、といったところでしょうか」
船をおそってきたサハギンは、三叉槍しか持っていなかった。
だが、上陸してきたサハギンたちは、鉄の盾を持ち、鎧を着ていた。
一方のオークは石の剣に毛皮の鎧だ。
物量も質も、サハギンたちが完全に上回っていた。
「真っ当にぶつかったら、勝ち目はないですね」
「ですね。
無数のサメ人間が海岸に上がり、水を
彼らは最初は腰をかがめ、注意深く辺りの様子をうかがう様にしていた。
だが、反撃がないことに気付くと、背を伸ばし、堂々と進み始めた。
サメ男たちは、いまや海岸の3分の1ほどを埋め尽くしている。
すると上陸したサハギンたちの後から、ひときわ大きなサハギンが現れる。
そのサハギンは、周りのサメ男と一風変わった格好をしていた。
頭に海賊のような三角帽を乗せ、手には三日月のような
その格好は、物語に出てくるカリブの海賊そのものだった。
ただし、サメ男であることを除けば、
海賊の格好をしたサメ男は、三角帽子を傾けて海岸を見回す。
そして傷の入ったエラを膨らませると、彼は高笑いを始めた。
<シャーシャッシャッ!! オークのやつら、戦う前から逃げ出したぞ!>
大曲刀を天に振りかざし、彼は続ける。
<ものども、勝どきを上げろ! この戦いはオレたちの大勝利だ!>
<<<シャーシャーシャ!!>>>
サメたちの耳障りな笑い声が氷河にこだまする。
このサメ男はどうやら指揮官らしい。
サハギンの指揮官はオークをあざ笑い、配下を鼓舞する。
その様子は、雪丘に隠れていた東都からも見ることができた。
「あ、なんかデカくて変なのが出てきた」
「先陣の指揮官ですかね? 他のより大きくて目立ちますね」
「エルさん、あれを討ち取ったら良いことありますか?」
「はい。先陣の士気を大きく下げることができると思います。もしかしたら、上陸部隊そのものが崩壊するかもしれません」
「よし……ならひとつやってみよう」
東都の足元には小屋から持ってきた毛皮を広げてある。
その上にはたくさんのリモコンが並んでいた。
このリモコンは、彼が海岸線に並べたトイレのものだ。
しかし、その数は20個そこそこしかなかった。
数千のサハギンにはあまりにも少なく、心もとなく見える。
だが、リモコンを見る東都やエルたちの表情に不安はない。
「サハギンが上陸の準備をしている最中だったので、海岸線に無数のトイレを並べることができませんでした。なので今回は仕掛けをメインにします」
東都はリモコンに手を伸ばして「ウォシュレット」を起動する。
すると、海岸線から浜に向かって、いく筋もの水流が襲いかかった。
水鉄砲は不運なサハギンを捉え、勢いよくぶち当たる。
しかし、彼らはエラを持ち水の中でも息ができる。
水鉄砲で転ぶことはあっても、溺れることはなかった。
<ハッ! 我らサハギンに水だと? バカなことを>
海岸線から配下を襲う水鉄砲を見て、指揮官はせせら笑った。
<奴らが頼みの綱にしている龍神は水の
サメ男たちは水鉄砲を切り裂いて、海岸を進み続ける。
水は彼らの足元にたまるだけで、侵略者を止めることはできなかった。
「トート様、サハギン達はまっすぐ突っ込んできます」
「むしろ勢いづいた感じね。沖に予備も残さず、先陣が全部来たわ」
「罠に気づいた気配はありますか?」
「ここから見る限り、ありませんわ」
「よし、いきます!」
東都はトイレのリモコンのフタを開く。
そして、ある機能を起動させるボタンを押した――
<
武装したサハギンたちは、水の中を泳ぎながら陸を目指す。
海賊帽を被ったサハギンの指揮官は、部下の背中を見ながらほくそ笑んでいた。
<獣王を退けた龍神が、どんなバケモノかと思えば……他愛無ィィ。水の流法が通用せぬ我ら相手では、手も足も出ん! 皆殺しにしろォォ!!!>
「「シャアアアア!!!!」」
大量の水は、ごつごつとした岩場の頭を覆い隠している。
水鉄砲はサハギンを打ちのめすどころか、むしろ彼らの移動を楽にした。
サハギンたちは水の中に身を沈め、泳ぎ進もうとする、が――
<シャーコラ! つっかえてんだから、早く前に行けよ>
<いや、なんか体が重くて……が、さ、さむ……>
<あん? な、なんだこれ……体の震えが……!>
<何ィ……?! こ、これは、氷?!>
いつの間にか、彼らの体を包んでいた水に氷が混じって泥のようになっていた。
シャーベット状になった氷まじりの水は、エラを通してサハギンの体内に入り込み、
<が……くッ!>
<う、うごけ……>
<バ、バカな……龍神の流法は水だけではないのか?! 水だけでなく、氷までも使いこなすだと……ヤツは何の
氷に捕らえられたサハギンたちは、力なく崩れ落ち、凍りついた。
サハギンの生態は、その見た目通りサメに近い。
彼らは変温動物であり、体内で熱を作ることが出来ない。
そのかわり、分厚い脂肪と特殊な血液で体に熱を蓄えているのだ。
人間が凍死する2度から4度の環境でも、サハギンは活動できる。
しかし、そんな彼らにも弱点があった。
――エラだ。
彼らは体内で熱を作り出せない。
その代わりに、エラを使って体内に熱を送り込む。
エラは酸素を取り入れるだけでなく、熱を取り入れる役目も持っているのだ。
サハギンは、太陽に近い海面や陸上にいる時にエラを開き、さながら電池を充電するように、エラで体に熱を蓄える。
この海岸はそれにうってつけだった。
何故か妙に生暖かい鉄砲水を受けたサハギンは、エラを全開にしていた。
しかし、突如としてその水が凍りついたのだ。
罠にかかったサハギンたちは、次々と凍死して
ただの一度として、手に持った武器を振るうことなく……。
バタバタを倒れるサハギンを丘の上から見ながら、東都は首を傾げていた。
「あれ……おっかしぃなぁ……ただ足どめするつもりだったんだけど」
東都はスキルが思った以上の効果を上げたことを不思議がっていた。
東都が新しく取ったスキル『冷房』は、文字通りただの冷房だ。
夏、トイレが快適に使えるだけの機能にすぎない。
ちょっと本気を出せば即座にマイナス数十度まで冷えるだけの機能だ。
彼はウォシュレットで大量の水を出して、そこから冷房でサハギンの足元を凍らせれば、強力な足止めになると思って使った。ただそれだけだった。
目の前で起きている凄惨な光景は、東都にとって完全な想定外だった。
東都はサハギンの生態どころか、サメの生態も知らない。
100%ただの偶然で、サハギンの先陣を完封してしまったのだ。
「ま、いっか!」
・
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※作者コメント※
トイレは水の
なんでバトル漫画みたいなことやってるんだろう……
ちなみにパルワールドしてたせいで、また更新がおくれました。
この作者、いつも何かのゲームしてんな……
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