無法星系に逃げ出して無事なわけもなく

第7話 不安と罪悪感をごまかす

機銀河共和国のシャトルを強奪することで、ワープ装置付きの船に乗り換えたオレだが、これで銀河帝国に帰るわけにもいかなかった。



理由として、現段階でこの宙域が戦場であり、銀河帝国側が負けており、銀河帝国領土へのゲート方向が主戦場になっている点だ。


そんなところに、銀河共和国のIFF信号を持つシャトルが飛んでいけば、銀河帝国側から問答無用で撃墜される。


さらに、現在は緊急発進の手順で強制的に宇宙に出ただけに過ぎない。このシャトルは最低限の機能を使えるだけだ。


正規の手順なんて持っていない以上、限定された機能だけでこのシャトルを動かさなければならない。


軍用船なので戦闘機能はあるけど、完全に使えるわけではないのである。



「これしかないよなぁ…」


そういうわけで、銀河共和国側のゲートにワープ照準を合わせる。


これなら、銀河共和国側の宇宙船として自然な行動だし、ゲートでも、軍用シャトルのIDで不審がられることなく通過することができる。



だが、これからの行動は時間との勝負だ。

戦闘の混乱の中だからバレていないが、戦闘が終わり被害状況を確認すれば、この船が強奪され事が判明する。


共和国領土へ逃げ込む以上、見つかれば捕まることになる。


まあ、これに関して問題はなかった。見つからないところへ逃げ込めばよいのだから。

大事なことは、バレる前にそこに逃げ込めるかどうかだ。



「ワープ軌道選定を手動に変更」

【ワープドライブ稼働を手動変更します。ワープ基点を設定してください】


そんなわけで、楽しい楽しい宇宙船操作の時間だ(皮肉)。


宇宙船に搭載されているワープだが、そう単純で万能な機能ではない。

ワープ航行はA地点からB地点に超高速で移動する。


とはいえ、星系の大きさ、ゲートの位置。周囲の環境など様々な条件が加味され、一律に目的地までワープできるわけではない。


なぜなら、ワープには莫大なエネルギーが必要となるからだ。

ワープしたけどワープ先でエネルギーが尽きてシールドも張れません、移動もできません、生命維持もできませんではただの自殺だ。


それを回避するために、A地点からB地点にワープするのではなく、エネルギーに余裕がある中継点C地点にワープする。

そこで、エネルギーの回復を行い、改めてB地点へワープするのである。


ここで重要になるのが、船に搭載されている自動操縦機能だ。

この機能により、船体のエネルギー量から移動距離、補充地点、回復時間。それが可能な安全な休憩ポイントの選定といった作業を行ってくれる。


さらにワープ装置の出力。宇宙船の機能や大きさ等についての計算を行って、効率的な移動経路を割り出すのである。

この時の「効率的」とは安全性を重視したという文言が付く。



これを手動にする事で、安全の割合を減少させることができる。


恒星に近く、光エネルギーによる自動回復速度が高い場所ではあるが、太陽風フレアによってシールドにダメージがあるような場所とか。

目的のゲートまで最短距離ではあるが、デブリが浮遊し回避行動をとらなければならないような場所を通る事で、安全性を軽視・・したより効率的なルートをとる事が出来るのである。


「偉い人は言いました。シールド機能が低下しても、船体にダメージがなければ実質ノーダメージなのだと」


どこの偉い人なのかは知らないが、とりあえず適当なことを言って不安と罪悪感を誤魔化すと、自動操縦よりもよりシビアな移動経路を割り出して、ワープ装置を作動させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る