第64話 どう見ても詰みだ

ブリッジを抑えたことで、この駆逐艦は無力化した。

だが、オレ達が来る前にブリッジから取引ようのAIをもってバーコード頭が逃げ出していた。

そのまま、バーコード頭は逃走用にシャトルを奪おうとしている。


格納庫の船に残していたウィル達が足止めしている間に、オレ達が追い付けば、相手を挟み撃ちにできる。

そんなわけで、ヘックスと一緒に格納庫へと向かっていたのだが。


【ムサシさん】


移動中にウィルからの連絡が入った。


「どうした?」

【すいません。逃げられちゃいました】

「外にか?」

【いえ、格納庫から艦内にです】

「ならいい。船に戻って警戒してくれ」

【はい】


残念なことに、挟み撃ちをする前にバーコード頭は格納庫から退いてしまったらしい。

ウィル達の足止めがすごいのか、バーコード頭の根性がないのか分からないが、たぶん両方だろう。

ノーマルスーツの通信先を切り替える。


「リッカ。バーコード頭が逃げた。調べてくれ」

【はいはい。逃げたルートを連携するね】


なお、主語はないけど連携するのはオレにではない。

その通信を聞いて情報を連携されたヘックスが移動ルートを変える。


「どこに逃げる気なんだろうな」

「自棄になって自爆装置で、諸共ドカンとか定番じゃないか」

「ブリッジ以外にそんな装置が付いている船の方が怖いな」


ヘックスと雑談しながら後を追う。

一般販売の駆逐艦である。当たり前だが安全基準があり、簡単に爆発するような作りにはなっていない。悪の組織の秘密基地じゃあるまいし、気軽に自爆できるような宇宙船は普通は販売できない(ただし不法製造船は除く)。


外に逃げる事ができない以上、バーコード頭は袋の鼠だ。ブリッジを制圧しているので船内に隠れる事もできない。船内スキャン一発で位置がばれる。

自棄になって襲い掛かってきても、相手はただの一般市民の企業人ビジネスマン。戦闘になればヘックス一人でカタが付くだろう。


どう見ても詰みだ。



【あ、やば】


と、ヘックスと余裕こいて歩いていると、通信から不審なリッカの言葉が漏れた。


「どうした?逃げたのか」

【いや、次の角を曲がった先にいる。隔壁を閉じたから袋小路なんだけど…】

「なんだけど?」

【そいつがいる貨物室に、今回受け取る荷物があるの】

「…」

「…」


リッカの言葉にヘックスと顔を見合わせる。


別におかしな話ではない。取引をする為に来た以上、代金となる物資が用意されているはずだ。非合法取引の場合、取引の痕跡が残らないように、現金ではなくアシの付きづらい物資である事もよくある話だ。


そういった物資を格納するのは当然貨物室だ。駆逐艦であっても船室の使い方が変わるわけではない。


歩調を速めながら通信機に向かって確認する。


「受け取る荷物ってなんだったんだ?」


武器弾薬とかだったら嫌だなと思いつつ、指定された角を曲がる。


まっすぐな通路の先にバーコード頭はいた。ちょうど貨物室のハッチからフラフラ出てきたところだ。

別におかしな武器は持っていない。ウィル達と銃撃戦をしたのだろう。個人用の小型ブラスターピストルを右手に持っているだけだ。

AIの入ったトランクはない。左手は握ったままだが空だ。トランクは貨物室の中だろうか。


バーコード頭もオレ達に気が付く。発光するバイザーをこちらに向けて二タリと笑う。

その笑みは異常だ。走り続けたせいで乱れたバーコードヘアが、その異常さに拍車をかけている。


その異様な姿と雰囲気に、オレとヘックスは足を止めた。


コツン


軽い乾いた金属音がした。

バーコード頭の左手から小さな器具が床に落ちて立てた音だ。

オレ達はそれが何かすぐに見て取った。


無針注射器


通信機にリッカから返事が返ってきた。


戦闘用身体強化ドーピング薬の詰まったコンテナ】

「おう。ジーザス」

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