第63話 感情に左右されてなんかいない
駆逐艦のブリッジ制圧は、あっさりと終った。
ハッチを開けると同時にブラスターを撃たれたが、元々隠れて扉を開けていたからセーフ。
後は、相手の銃撃がやんだ所をベッキーのヘビーブラスターライフルで一掃すると、抵抗していたブリッジのクルー達は、早々に戦意を失った。
まあ、誰が見ても火力が違うからな。
駆逐艦ではあるが、正規軍のようにクルー全員が戦闘訓練を受けた軍人というわけではなく、オペレーションの為だけに雇われた非戦闘員もいる。抵抗が無意味だとわかれば、彼らはあっさりと降伏する態度を見せた。
もっとも、問題がないわけではなかった。
「バーコード頭は?」
降伏したブリッジのクルーにAIを持ち逃げしたバーコード頭がいないのである。
チャキ!
ヘックスが無言で両手を上げて降伏したブリッジクルーの額にブラスターの銃口を突き付ける。
「気が付いたら。い、いなくなっていたんです!!どこにいるかわかりませぇん!!」
血の気の引いた顔で脂汗を流し、脅されたクルーが緊張でかすれ気味の声で答える。
「逃げたか」
正直に答えたので、ヘックスはクルーから銃口を外す。
普通の船(シェイク号は除外)もだが、駆逐艦には脱出装置が備わっている。非常時に船外へ逃げる事が可能だ。
とはいえ、外は海賊船が飛び回っている。ブリッジを制圧した時点で、リッカが連絡して海賊たちは攻撃をやめているが、駆逐艦の近くで待機している。
そんな中、脱出装置で逃げようとしてもすぐに見つかって捕まるだろう。緊急脱出装置には海賊船から逃げられるような機動力は備わっていない。
となれば…
【ムサシさん】
通信が入った。格納庫で「シェイク」号に待機させたウィルからだ。
「おう。そっちに逃亡者がいったか。逃がすな」
【はい。バシュン!】
返事を言うが速いが、ブラスターの発射音が通信機から聞こえる。
前にも言ったが、軍艦の格納庫には移動用のシャトルが置いてある。実際、この駆逐艦の格納庫の隅にも、古びたシャトルが置かれていた。
それで、海賊船から逃げられるかは不明だが、緊急脱出装置よりは可能性はあるだろう。
「ウィル。無理はするな。船を盾にして足止めだけでいい。ルーイン。スピアを使って援護だ。ビビらせればいい。最悪シャトルは撃破してもいいぞ」
【はい!】
【はい。スピアは最小威力に設定します】
基本的に個人携帯武器で、宇宙船を破壊する事は不可能だ。対艦兵器でもあれば別だが、そういったデカブツを普通の人間は携帯しない。
そして、ウィルの銃の腕はなかなかのモノだ。隻腕ではあるが、片手で使えるブラスターピストルを撃たせると、他の二人よりも腕が良いい。
つまり、我がシェイク号の中で第二位の銃の腕を持っている。ちなみに、オレは五本の指に入る腕前だ。
ブラスターピストルなので射程は長くないが、駆逐艦の小さな格納庫内なら十分射程範囲だ。
「あんまり無茶してほしくないけどね」
通信を聞いていたリッカが横から不満を言う。
制圧した以上、駆逐艦は海賊達が接収する事になる。格納庫に、駆逐艦の主砲になるビーム砲「スピア」の大穴を開けられるのだ。当然、新しい持ち主は破損部分を修理する必要が出てくる。
「逃がすわけにはいかないだろ。で、オレ達で確保に向かえばいいか?」
「そうね。おっちゃん達にお願いするわ。こっちでサポートはするから」
「はいよ。ヘックス。行くぞ」
何の話かと言えば、誰が逃げたバーコード頭の確保をどうするかという話だ。
ブリッジで降伏するクルーたちの見張りが必要である以上、四人全員で追いかけるわけにはいかない。
前回のチーム分けの時は、オレとヘックスはバラバラになるよう指示されたが、今回は普通に許可が下りた。少しは信用してくれたという事だろう。
まあ、荷物を独り占めして逃げようとしても、外には
「格納庫までのナビゲートを頼む」
「はいはい」
リッカは軽い感じで返事をすると、捕虜はベッキーに任せて、ブリッジのコンソールを操作しはじめる。
それを後目に、オレとヘックスはブリッジから出て、通路を速足で移動する。
「ルートは任せたぞヘックス。その優秀なスーツで最短ルートを教えてもらってくれ」
別にさっきの無言連絡の話が尾を引いているわけではない。
適材適所だ。わざわざ携帯端末機のモニターを見ながら移動するより、ヘルメットの内蔵モニターに順路を表示したほうが効率的かつ合理的だ。
感情に左右されてなんかいない。オレは冷静だ。
そんなオレを見て、表情は見えないがヘックスはため息を一つつくと、オレの前を歩きだす。
「はぐれて迷子になるんじゃないぞソードマスター」
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