第62話 こうなる事も予想していたんだな
代金をもらう前に、商品を持ち逃げされた。
こちらを攻撃してきた三体の警備ドローンは、そのままヘックスとリッカの攻撃をうけてスクラップに変わる。
商品を持って逃げたバーコード頭を追わなければならない。
「逃げられちゃったぁ悔しいな~」と歌うのは機体が爆発してからだ。
一刻も早く追いかけたいところだが、その前に疑惑を解消しよう。
「こうなる事は予想していたな」
「あ、わかった?」
「あれだけ露骨だと、流石に分かるわ」
剣を肩に担いで聞くと、悪びれもせずリッカは答える。
同行していた海賊船が付いてこない事とか、わざわざオレに荷物を持ってこさせて、さらに敵の攻撃から守りやすいように近くに立つよう指示するとか、絶対に何かありますと言わんばかりだ。
「よかった。おっちゃんは察しが悪そうだったから。ちょっと心配したんだ」
「おい」
「文句を言うなら無線通信のインプラントをしてよ。そっちのバトルスーツの
リッカの言葉に、ヘックスをみると、全身バトルスーツのバケツ型ヘルメットで表情を隠したまま肩をすくめる。
戦闘補助機能を持つバトルスーツには当然通信機も内蔵されている。音声を外に漏らさない会話から、ヘルメット内の視覚内の情報表示によるメッセージ連絡も可能だ。
そして、彼女の仲間にはハッカーのベッキーがいる。周りに気が付かれることなく連絡する事は造作もないだろう。
え?オレ。全身ナチュラルです。
「サイバー装備は嫌いなんだよ」
下唇を突き出して、すねたように答える。
別にノーマルスーツに通信機能が付いていて、連絡はできるんだからいいじゃないか。
さて、逃げたバーコード頭を追わずに、悠長に会話をしているのには理由がある。
リッカの相棒のベッキーだ。
彼女は警備ドローンとの戦闘が終わると、背負ったバックパックから分解された部品を取り出して組み立て始めたからだ。
オレ達は、それが何か分かったので、完成するまで待っているのである。
そんなわけで、オレ達が雑談している間に、ベッキーは手早く組み立てた品を持ち上げる。
ヘビーブラスターライフル。
軽機関銃とよばれる分類の大口径マシンガンだ。大型のエネルギーパックと冷却装置で、高威力の熱線を連射する頼もしい武器だ。
前に秘密基地で散々追い回してくれたバトルドロイドが持っていたのが大口径二連砲であるの対し、こちらは一発の威力こそ劣るが、連射性に優れた大型マシンガンである。
通常は地面に置いて使用する武器で、重量と熱量から個人が携帯して使用するような武器ではないのだが、ベッキーの左腕がサイバーアームで、この重量兵器の保持と使用が可能なのだそうだ。
彼女達が無法地帯で生き残っているのはハッカーとしての腕だけではないという事だ。
タタタンタタタンタタタンタタタン
リズミカルな音と共に、向かってくるドローンが撃破される。
大口径の威力ゆえに容易にドローンのシールドと装甲を貫くために、押し寄せてくるドローン達は次々に破壊されていく。
オレはといえば、たまに攻撃してくるドローンの攻撃を、ベッキーの邪魔をしないように防ぐくらいしかしていない。
正面をベッキーの軽機関銃が、回り込まれた時の為にヘックスは脇道と後ろを警戒し、リッカが二人の補助という形で駆逐艦の中を進む。
目指すのは駆逐艦のブリッジだ。
大火力を持つベッキーがいれば、駆逐艦のブリッジを制圧する事もできるだろう。そしてブリッジを抑えれば、この駆逐艦は無力化する。
安定してドローンを撃破しつつブリッジへ向かうオレ達だが、そんな駆逐艦の窓からは、海賊船がこの駆逐艦に向けて放たれるビームの光線が見える。
あの後、リッカが別行動で隠れていた海賊船に合図を送り駆逐艦を攻撃させているのだ。
もちろん、駆逐艦が撃墜されれば、オレ達もお陀仏なのだが、あくまでも海賊船からの攻撃は牽制だ。
駆逐艦とギリギリの距離から撃ち合っているだけで、お互いの攻撃はそうそう命中しない。よほど長期戦にならなければ、駆逐艦のシールドを破壊する事もできないだろう。
つまり、今のところオレ達は安全という事だ。
海賊船にそんな攻撃をさせているのは、ひとえにオレ達が駆逐艦を制圧するための時間稼ぎだ。
いくらフリゲート艦より高性能の駆逐艦とはいえ、対艦戦闘中となれば、船内に乗り込んできた
当然、オレ達への対処の手は緩む。
「こうなる事も予想していたんだな」
つまり、交渉が決裂する事を想定して、同行した海賊達を事前に隠し、ベッキーに大火力の火器を用意させて同行させていたという事だ。
交渉相手として海賊本人ではなく
その結果は?
相手が約束を破ったという事実だけが残る。仁義を欠く行動をしたのだ。何をされても相手が悪い。アウトローの世界ではそう判断される。
オレの言葉にリッカがニヤリと笑う。
「おっちゃん。今頃気付くようじゃ、やっぱり察しが悪いよ」
わらわらと防衛用のドローンこそ出て来たもののしょせんは一般汎用ドローン。ベッキーの大火力を前に一方的に蹂躙され、わずかな時間稼ぎにしかならず、宇宙船の最重要ルームであるブリッジへのハッチが見えてくる。
「おう。ジ-ザス」
リッカの指摘に、とりあえず天を仰いだ。
――――――――
警備ドローン対策で、リッカが主人公を前に出して守らせたのは、自分ではなく、実はその後ろにいた(決戦兵器持ちの)ベッキーでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます