無法者の取引が無難に終わるわけもなく

第61話 これは、ワタシ等の、お仕事

無法者の襲撃を受けたものの撃退。船体への被害に関しては、一部装甲が剝がれたのとイエローアラート(警告)が増えた程度で、致命的な問題はなかった。

というわけで、一人だけ離脱という事もなく、ワープ間のエネルギー回復期間に、ちまちま壊れた装甲を修理しつつ目的の取引現場に到着。


あとは、荷物を受け渡して代金を回収するだけだ。




そんなわけで、取引現場に現れた正体不明の駆逐艦に乗り込んだ。

正体不明といっても、あくまで正規軍のものではないというだけで、一般に販売されている駆逐艦だ。


実際にこれらの一般用戦闘艦は、各星系の組織団体から、金持ちの護衛用や傭兵団、あるいは企業の私兵として、広く使われている。


もちろん、正規軍で使用していた機能のいくつかはオミットされ能力は1ランク落ちるものの、それでも戦闘艦艇として十分な機能を持っている。

曲がりなりにも軍艦という事で値段が高い事と、ある程度の人数の専門職員を必要とする点が、個人所有できない理由の一つだ。

オレ達のような無法者が個人で手に入れるのは無理な代物だ。


ただ、条件さえクリアできれば、フリゲート船とは桁違いの戦闘能力を発揮するので人気は高い。



駆逐艦の格納庫にシェイク号で入り、オレとヘックスは船を降りる。他の3人は船内で待機だ。

見れば同じように移動用のシャトル(彼女の船が大きすぎて入らないので)からリッカ達も降りてくる。


他の海賊船はいない。この星系に入った段階で別行動となっている(理由の説明なし)。

リッカが駆逐艦の船内ドローンと取引用の符丁の照合をしている間に、一緒に降りてきた彼女の相棒でハッカーのベッキーに声をかける。


「他の奴らは?」

「これは、ワタシ等の、お仕事」


いつものバックパック背負ったベッキーは、手に持った(おそらく取引するAIの入った)トランクを持ち上げて見せると、船内ドローンと一緒に移動し始めたリッカの後を、ベッキーと個人的にも親しいヘックスと一緒に歩いて行ってしまう。

最後に残ったオレは、3人の最後尾を歩きながら軽く鼻を鳴らした。


「臭っせぇな…」




案内された船室はがらんとした無機質な空き部屋だ。

装飾品や収納具など一切ないむき出しの壁と床しかなく。そこに急ごしらえで用意しましたと言わんばかりに簡易設置の机と、安物椅子が二つ置かれている。

それだけだ。


その片方の椅子に、リッカが座り。

机を挟んでもう片方の椅子に、バーコード頭の冴えない中年のおっさんが座っている。


ちなみに、こちらの人数は4人である。他の三人には椅子などなく立っていろという事だ。


相手の中年のおっさんは、いかにも企業人という背広姿の貧相な男だ。目に大型の多目的バイザーをつけており、ランプが青く発光してこちらを照らしている。


「さっさと済ませるぞ。商品を確認する。早く出したまえ」


少し神経質そうな甲高い声でそう言った。


…なお、挨拶も名刺交換もなしである。企業人ビジネスマンのようだが社会人の基本マナーはないらしい。


見れば、バーコード頭の後ろには直径1mほどの球体が3つ浮かんでいる。

警備用ドローンだ。


一般用にも販売されているバトルドローンの一種で、戦闘力に関しては、軍事用には劣るものの、光学武器を内蔵し一般汎用ドローンより高い戦闘力を持つ。

他と比べて高いシールド能力を持ち、護衛としても役に立つ戦闘用ドローンだ。個人から星系の自治組織などでも配備されている事がある。


「おっちゃん。ベッキーから受け取って持ってきて」

「…あいよ」


言われて、ベッキーからAIの入ったトランクを受け取り、椅子に座るリッカの前に置く。


「ちょっと後ろにいて」


そういうリッカの言葉に返事はしないで、言われたとおりにリッカの斜め後ろに立つ。

リッカはトランクにかかった電子キーの暗証番号を押してトランクを開けると、バーコード頭の前に滑らせる。


「…」


バーコード頭は内ポケットからコードを伸ばすとトランクの中の機器に接続して中のデータを確認する。バイザーに連動しているのか青い発光がチカチカ点滅する。

しばらくするとその点滅もおさまる。


「…いいだろう」

「それじゃあ、代金を受け取りましょう」


リッカの言葉に、ケーブルを戻してトランクの蓋を閉じたバーコード頭がニヤリと笑う。

同時に、警備用ドローンが前に出てくると、球体が中央から割れ、内臓ブラスターの銃口をこちらに覗かせる。


「だろうな」


口の中でつぶやきつつ、前に出て剣を抜き弾道を遮るように刀身を置く。

こうなる事は予想していたよ。



とはいえ、相手は三機。同時に撃たれるとさすがに剣一本では防ぎきれない。最悪、左腕一本を犠牲にして初弾の一発はそちらでカバーさせるか。

腕の再生なら、時間と金さえあれば可能だ。


だが、そんな心配は必要なかった。

3体目の警備ドローンにブラスターの熱線が突き刺さる。ヘックスの攻撃だ。

それは警備ドローンのシールドではじかれはしたが、次々と撃ち込まれる正確な射撃で警備ドローンはこちらを攻撃できなくなった。


ナイスゥ。

口には出さす余裕はないが口元に笑みが浮かぶ。相手が二機なら問題ない。剣の軌道を修正させる。


チュイン!チュイン!


警備ロボから同時に打ち出された熱線は、見切った通りに剣で切り払う。


だが、相手は感情のない警備ドローンだ。オレの神業に驚くような余計な機能などはなく、怯むことなくこちらを攻撃してくる。

相手は機械だ。疲れることはない。対してこちらは生身であり、当然動き続ければ疲れて鈍る。


だが、問題はなかった。


ドローンの攻撃をから守ったリッカも銃を抜いてヘックスと一緒に警備ドローンを攻撃しはじめたのだ。

二人の集中攻撃で、すぐに警備ドローンのシールドは限界を迎えて消え、続けて本体に何発も致命的なダメージを受けた事で機能を停止して床に落ちていく。


二人はすぐさま、次の警備ドローンを攻撃する。

そして、切り払う相手が一体になれば、オレの負担は格段に減る。


とはいえ、楽になっただけではなかった。余裕ができた視界の端でバーコード頭がトランクを持って部屋から逃げ出して行く所だったのだ。


「おう。ジーザス」


警備ドローンの熱線を切り払いながら後を追うことはできない。切り払いって何度もやっているけど、一回ミスすれば致命傷になる危険な作業だ。


手を出せないまま、部屋のハッチが閉まる。

大事な事なのでもう一度言いますが、オレ達の仕事は荷物の受け渡しと代金の回収です。

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