第58話 答え合わせが出来てしまった
荷物を渡して代金を受け取る簡単なお仕事です。
悪意を持って邪魔する存在がいるってことを抜かせばな!!
【大丈夫だって、企業だって馬鹿じゃないからね】
明るいリッカの通信が入る。
まあ、リッカの言い分もわかる。そもそも今回の取引は非正規な取引だ。いくら、価格の競り合いで負けたからと言っても、企業の持つ私設軍隊を、わざわざ辺境まで移動させ、オレ達をせん滅させようとしてくることはまずない。
大企業は「表」の存在だ。私設軍隊という戦力を持っているが、今回の件は企業の命運を左右させるような重要な内容でもない。
せいぜい企業の(裏の)面子がつぶれた程度の話だ。黙っていれば表に出てくることもない事件である。
わざわざ、自分達から騒動を大きくして、問題を発覚させるわけがないのだ。
現在、オレ達は5隻の船で同期をとって
OSSからいくつものゲートを経由して、企業との取引地点へと向かっている。
オレとリッカは自分の船を使っているが、他の3隻は海賊の船だ。お目付け役と言ったところだ。
分かった事だがリッカとベッキーは、別にナディア海賊団の一員というわけではない。
彼女たちは、海賊団と付き合いはあるが基本はフリーランス。必要に応じてナディア海賊団に雇われたのだそうだ。
たしかに、専門知識に専門装備を必要とするハッカーを常時雇用し続けるほど、海賊団も裕福ではないだろう。
リッカが乗っている船も、オレと同じフリゲート船ではあるが、改造と重武装を施した重装フリゲートと呼ばれるタイプの船だ。軍艦である駆逐艦ほどではないものの、それに準ずる戦闘力を持っているものも少なくない。
海賊からすれば、臨時で雇う事が出来れば即席の戦力強化になる用心棒というところだろう。
まあ、要するにフリーランスの無法者だ。
つまりは、立場で言ったらオレ達と同じなのだが。付き合いが長い分向こうの方が先輩というだけだ。
そんなわけで、大企業様とのお取引である。当然取引額は無法者に支払う報酬とは桁が違うはずだ。
そのまま持ち逃げされるような間抜けなことにならないように、海賊が同行するわけだ。危険なことはフリーランスに、安全なところは自分達…時代が変わっても変わらないものってあるよな。
まあ、その分報酬が高額なんだから我慢しろという事なのだろう。
実際、海賊からすればオレ達は部外者である。
ましてや、付き合いの長いリッカ達とは違い、オレ達は数回顔を出した程度の新参者だ。
前回の仕事以降も、海賊たちと付き合うような事をするはずもなく、親しくする義理もないとばかりに、オレ達への連絡は皆無。必要事項はリッカ経由というほどだ。
おかげで回線はリッカの宇宙船「ホワイト・サボテン号」に繋ぎっぱなしだ。
なお、船のネーミングセンスはどうなのだろうかと思うが、他人の船の事なのでスルーしておく。
【わざわざここまで虎の子軍隊を持ってくるほど、お金をかけるわけがないじゃん】
当然だが、宇宙船の移動には金がかかる。搭乗員の給料はもとより、移動までの空気や食料。さらには船のメンテナンス。
軍隊は、存在するだけで維持費が必要になる金食い虫だが、稼働させればその虫の食欲も倍増する。
ましてや、ここは辺境に位置する星系だ。
掛かる経費は移動距離に比例する。
【せいぜい、嫌がらせをする程度だよ】
「嫌がらせねぇ。例えばどんな?」
オレの問いの答えを探すかのようにリッカの返事が一瞬止まる。
そして、その返事と同時に、コンソールを見ていたルーインが声を上げた。
「ワープアウトする船があります!数6!」
【はした金で無法者を雇って襲撃してくるとか?】
奇しくも答え合わせが出来てしまった。
「おう。ジーザス」
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