第57話 それでもオレはやっていない

「おっちゃんの子?」

「断じて違う!」


リッカの第一声を断固とした態度で切って落とす。

たしかに、オレは40歳手前のおっさんだ。これくらいの年齢(10歳前後)の子供がいても不思議ではない。


だが、それでもオレはやっていない(意味浅)。


なにせ、20年近く刑務所に服役していたのだ。当然刑務所では男女は別。子供ができる行為などできようはずもない。


このような疑惑を向けられることはあり得ない。完璧なアリバイがあるのだ。まあ、こんな世界の技術なので冷凍保存させたDNAを使って…といった事も考えられるが、オレの遺伝子を使う理由がないので、やはりオレは無罪だ。


何度でもいうが、オレはやっていない!


「じゃあ、なんで子供いるのよ?」

「野暮用だ」


リッカの詮索を誤魔化す。顔見知りではあるが、彼女は他人だ。余計なことに首を突っ込まれても困る。


まあ、リッカからしても、これから戦闘になるのに、船に子供が乗っている事を気にしているだけの事なのだろう。


まあ、その辺はヘックスが悪い。深く突っ込まれたらヘックスに聞けと、丸投げしよう。




女宇宙海賊ナディアからの連絡があった。

とはいえ、あくまでもリッカ達とセットの仕事であり、彼女達と一緒に行動することになる。


「今回のお取引先はコーポの人です」


リッカの言葉に、口がへの字に曲がる。


コーポとは隠語だ。オレ達まっとうではない人間や底辺ランクの人間が、大企業の人間である上流階級を揶揄する時に使う言葉である。


当たり前だが、大企業がこんな辺境の無法地帯と取引をするはずもなく、エリート意識をかさに着るような奴らが多いので、特に嫌われているジャンルの人種だ。


「例のAIの受け渡しと、代金の受け取りが今回のお仕事だよ」


前にリッカ達と仕事をした際、秘密基地で極秘に研究していた軍事指揮AIを回収した。どうやら、それを企業に売るのが目的らしい。


「このAIは海賊団では使わないのか?」


戦闘指揮AIである。荒事専門の海賊にとっても有効な武器になるだろう。


「ノンノン。これは軍事用AI。軍隊みたいなカッチリした命令を、荒くれどもが聞くわけないじゃん」

「なんて説得力のあるお言葉なんでしょう」


好き勝手暴れまわる海賊が、軍人みたいな合理的な行動をとれるわけがなかった。そもそも、抜け駆け横取り当たり前と、仲間すら出し抜こうとする海賊達が、他人の命令をまじめに聞くわけがないのだ。

騒ぎまくる悪ガキ幼稚園児に言う事を聞かせるのは、合理的な正論ではなく、忍耐力と慈悲の心だ。


「で、そのAIを元の持ち主に買取交渉を持ちかけたわけか」


仕事内容を確認して納得する。

まあ、研究成果を回収すれば、企業としても一応は目的達成だ。そこから得られる利益云々と収支報告はオレ達には関係ない。


「え?なんで」

「…コーポに渡すんじゃないのか?」

「高値を付けた方に売るんだよ」

「高値…」


企業が秘密に研究する研究内容についてオークションにかけた場合、当然その研究内容を必要とする者が競りの相手となる。


ビジネスの世界で、それをライバル企業と呼びます。


「それって、元の持ち主の企業さん。怒らない?」

「怒るだろうねぇ」

「取引を邪魔しに来たりしないかな?」

「邪魔しに来るだろうねぇ」


オレでも分かる危険性について指摘と、同意する用に両手を組んで、ウンウンとうなずくリッカ。

そして、「なぜ、雇われたのかが分かっただろう」と言わんばかりに、ニヤリと笑った。


「おう。ジーザス」


…はい。理解しました。

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