呼ばれるのはどう見ても危険な仕事

第56話 それ以外の才能は与えられなかった

第48話と題名が似通っていたので修正しました。(2023/12/02)


(旧)オレの趣味じゃねぇぞ→(新)それ以外の才能は与えられなかった

※別に誰かの性癖を強調する意図はありません。

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バシュン!


両手で握った銃のトリガーを引くと、銃口から熱線が飛ぶ。

それは、30mほど先に置かれた円形のターゲットに…当たらなかった。


バシュン!バシュン!


続けてトリガーを引く。

最後の一発が、ターゲットには当たらなかったがプレートの端には当たった。


チラッ


横目でウィルを見る。

「どれくらい射撃できるんですか?」と、かなりの命中結果を出したターゲット片手に聞いてきたウィルは、サッとオレから視線を逸らす。

その横で、銀髪褐色のヘックスが顔を後ろに向け、こちらを見ないようにしているが、その肩が小刻みに震えている。


「うるせぇぞ賞金首バウンティ


オレの言葉にヘックスは顔を向けるが、表情がゆがみ笑いをこらえる表情を隠しきれていない。


「何も言ってねぇよ」

「…ジーザス」


そして、オレの悪態を一刀両断する。

オレは口を「へ」の字に曲げて「もう撃たない」という意思表も込めて、銃から弾倉を抜いた。



さて、考えたことはないだろうか。

達人級の剣の腕を持っているなら、剣を振りつつ銃を撃てば、遠近両方の対処ができて、無敵の無双にオレTUEEEになるんじゃないかと。


その考えは正しく、そして間違っている。

思い出してほしい。オレがなぜチート級の剣の腕を持っているのかを。


それは異世界転生の際に、チート能力として神様にお願いしたからだ。

神様は嘘を言わなかった。オレの願いの通りに剣の才能を与えてくれた。


言い換えるとそれ以外の才能は与えられなかった。


別に、才能がないというだけで死ぬわけではない。

普通の人が普通にできる事は普通にできる。一般的な宇宙船の操縦とか、初級の修理作業といった、普通の資格に関しては普通に取得できる。


だが、才能が必要な能力は全くなかった。

どんなに努力しても成績上位者になる事はなかったし、競技スポーツでも強豪が相手だと普通に負ける。


普通に努力すれば他人と一緒に合格点は取れるが、選ばれた人のように表彰されるわけではない。努力が認められるような舞台に立てるわけでもない。


なんにつけてもそうなのだ。


そりゃ、今世のオレも宇宙海賊にドロップアウトしたくなるだろう。

何をしても普通で、唯一剣の腕だけが無双だ。それしかないからこそ、それにすがって生きる道を選んだのだろう。


まあ、逮捕されて受刑中にバトンタッチされたオレからすれば、早まりやがってと愚痴るだけだ。

『ワンパクでもいいたくましく育って欲しい』という心境にはならない。




捕まっていたヘックスの仲間を救出したものの、オレ達の状況は変わっていない。

宇宙海賊ナディアから仕事の予告をされており、その前金までもらっている以上、とりあえず仕事に参加する義務だけは残っている。


まあ、そうそう生活に困らない額をもらっているので、呼ばれるまでのんびりバカンスを楽しめばよかったのだが、そうは問屋が卸さなかった。


まず、捕まった仲間を救出するために、無茶な操縦をしたオレの船である「シェイク号」の船体には被害が出ており、さらに直したはずの振動抑止機能まで再度不調を訴えている。


前の修理は、シェイク号は別にダメージを受けたわけではなかった。修理というよりは振動抑止装置を取り付けただけで、失敗しようがなかった状態だ。


今回は、その振動抑止装置の修理も含まれるわけで、当然そこには技術力を必要とする。


金のために違法行為を引き受けてくれる業者というのは多くない。ましてや、技術を持っている業者ならなおさらだ。


一応、修理(と主張する)作業により、振動機能は50%程度(当社比)は回復したものの、船体の状態は完全回復とはいいがたく、全体のメンテもしているはずなのに、いくつかの機能の状態はイエローアラート(警告)表示のままの機能もある。


これでもOSSのように、資格もない業者が壊しておしまいというわけではないのでまだましな方だ。




とはいえ、前回の騒動は悪い事ばかりではなかった。


「ご飯できたよ」

「う~し。メシにしようメシ」


痛々しい視線をスルーしつつ、呼びに来たビアンカに笑顔を向ける。


その一つが食事事情の改善だ。

オレもヘックスも食事に関しては、特にこだわりもなければ好き嫌いもなかった。


これまでの宇宙航行中の食事は、買い貯めてある安物栄養食だ。

一枚の凹凸のついたプレートに、1食分の真空パックされた料理が収まっているだけの食事である。


無重力状態でもパックの端を破って口をつければ食べる事の出来る便利な宇宙食だ。


パックからプレートに出せば、食器を使って食事をしている気分は味わえる。

加熱装置にかければ温かい食事に変わる。

味に関しては、お好みのスパイス(別売り)をかければ変わるだろう。


そこまでする気がないなら黙ってさっさと食えという代物だ。

味についてはお値段相当という事で説明はいらないな。


そんな食事事情であったが、新人船員の参加によって劇的に変わった。

正確に言えば、一番年齢の若いビアンカが、結構な料理好きだったのだ。


生活必需品を買いに行かせたところ、彼女は食材も一緒に購入してきた。

酒と氷と水しか入っていなかった冷蔵庫が、本来の機能を果たすことになったのである。


そんなわけで、食堂というか船唯一の共有スペース多目的リビングに入ると、すでにルーインが組み立てテーブルに料理と食器を並べていた。

オレ達は壁際に置いた折りたたみ椅子をテーブルまで運ぶ。



人の手による料理程度なら、ステーションに行けばいくらでも食えるのだが、現在オレ達はOSS星域の何もない場所に待機している。

理由は、LSSの中継ステーションが騒がしいからだ。


どうも、この星系に共和国の国際調査機構の査察が入り、LSSらしからぬ数の治安部隊がこの星系に駐留する事になったのだ。

なんでも、密輸業者とLSSの管理官の汚職が発覚し、芋吊る式に汚職職員の摘発があったのだそうだ。


…心当たりがないではない。

密輸業者の隠し倉庫を暴いて治安維持部隊の前に放置したり、LSSの汚職職員の隠し倉庫からコンテナを拝借した気がする。


まあ、そんなわけで治安組織に目を付けられないように、中継ステーションに違法製造船で乗り付ける事を避けて、星系の片隅にひっそりと潜伏してるのである。




今日の食事は作り置きのマッシュポテトに、大皿に盛られた二品の料理を自由に取って食べる形式だ。

子供三人に大人二人の食事。リビングがにぎやかになる。


「なんか、このポテト知った味がするな。なんだろう…」

「ああ、それは宇宙食のポテトパックを混ぜてるんです」


…あのプレートの白いパックはポテトだったのか。塩味しかしないシロモノだと思っていた。

それよりも、宇宙食すらアレンジするのか。ビアンカ。恐ろしい子!



とはいえ、彼女たちの参加に問題がないわけではない。

例えば、ルーインやビアンカがメイド服を着ている件などだ。


オレの趣味じゃねぇぞ(強調)。


ちゃんと自由に服を買うように伝えたが、彼女たちが買ってきたのはメイド服だった。

理由を聞いたら「かわいい服が着たかったから」という事らしい。

まあ、開拓民の一族であり辺境で暮らしていたというのなら、お洒落をする自由はなかったのかもしれない。


まあ、自由に買えと言った結果がこれなら、それはそれで自由にどうぞという話だ。

なお、ビアンカも同じ服なのは「ルーインと一緒がいい」との事らしい。


唯一の男の子であるウィルは、普通の子供用の服だった。この年頃の男の子はそんなものなのかもしれない。




現在最大の問題は、元々一人でも操縦可能なフリゲート船である「シェイク号」に現在5名の搭乗員がいる事だ。


シェイク号にある個室は3つなので、倉庫として使っていた3部屋目を女の子用の部屋にして二人を詰め込み、ウィルに関してはヘックスと同室にした。

オレは個室を一人で継続使用だが、倉庫の荷物を放り込んでいるため、そのスペースはかなり圧迫されている。


現在食事をとっているリビングも折りたたみ型の椅子を使って無理やり5人で食事をしている状況だ。

明らかに過密状態である。


とはいえ解決方法は今の所ないんだよなぁ。


PIPIPIPI


食事で邪魔なので壁際に追いやられていた端末がアラームを鳴らして、連絡が入った事を告げる。

折りたたみ椅子の足についたローラーをつかって、行儀は悪いが座ったまま壁ぎわの端末へ。


コンソールを操作して、送られてきたメールを確認する。


「おう。ジーザス」


一応、問題の解決になりそうな話ではある。

つまり、海賊ナディアからの厄介事の仕事の連絡が来たのである。

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