第19話 名前で呼べ!名前で!!

それは偶然だった。


オットーたちと合流したオレ達は、ヘックスの先導で、敵の襲撃を避けながら移動していた。



そんな中で、遮蔽物を利用して大通りを横切ろうとしていた時だ。

ステーションなので天井こそあるが、ショッピングモールのように建物が立ち並んでいる。とはいえ、抗争のさ中で、先の爆発など警戒状態なのか、店はすべてシャッターが下ろされ営業はしていない。ゴーストタウンのようだ。


先頭にヘックス。その後ろをオットーとガンツのとっつぁん。その後ろをオレ。最後に組合員の部下たちが追っ手を攻撃して足止めをしている。


ふと、先頭を走るヘックスが、横を向いての大通りの先に目を向けた。それを見てオレも、その視線の先を追った。

視線の先。ヘックスの見た視線の先。見えたのは一つの人影。


トン…


同時に、オレの胸に小さな衝撃と重さを感じ体制が崩れる。

視界の人影が構えているのはロングレンジ用のライフ…


チュイン!


体勢を崩しながらも、発射されたブラスターの射線に、腕を伸ばして何とか剣を滑りこませる。

…間にあった!


視線を前に戻すと、こちらに手を伸ばし、オットーを抱え込んで熱線からかばおうとしているヘックス。オレに倒れこんでいるのはガンツのとっつぁん。とっさにヘックスが突き飛ばしたのだろう。


「うをっ!?」


そのまま床に倒れるが、そのままガンツのとっつぁんを連れて出てきた路地へ転がり込む。


危なかった。衝撃のないブラスターの熱線だから、腕を伸ばした片手の軽い握りでギリギリ受けることできた。実弾の銃だったら剣ごともっていかれていただろう。


慌てて剣を握りなおして前を見ると、障害物に隠れたヘックスが、怪我をしているオットー組合長を障害物の影に引きずっている所だ。


ズキューン!


だが安心はできない。


次の発射音とともに、ヘックスの隠れている障害物を熱線が貫通する。薄い一枚板でしかない障害物では、高出力の熱線を遮れないのだ。


どうする?このまま前に出て熱線を受ける事は出来ても、相手との距離がある。相手の元に向かうまでに時間がかかりすぎる。


相手はロングレンジのライフルだ。組合員やヘックスの持つブラスターピストルでは射程が届かない。

ブラスター銃はその構造から、射程内では安定した命中率と威力があるが、その有効範囲外になると途端に効果が下がる。


射程の違う相手には、こちらの射程まで近づかなければならない。



「おい。お前。ソードマスター!囚人!」

「名前で呼べ!名前で!!」


ケガをしているオットーを抱えながら、ヘックスが声を上げる。


罵倒なのか二つ名呼んでいるのかわからないんだよ!刑務所でも囚人番号で呼ばれていたから、まだ受刑中のような気がして嫌なんだよ!


「名前を知らん」

「ムサシだ。ム・サ・シ」

「わかった。ムサシ!」


オレの名前を聞いて、囚人プリズナーでもソードマスターでもなく名前を呼ぶヘックス。

そういえば、OSSに来て、初めて名前を呼ばれた気がする。なんか名乗ったら素直にそう呼んでくれると、正直好感度が上がる。


話をしてみたら結構いい奴なのかもしれないな。




そう思ったところで、ヘックスは言葉を続けた。


「ムサシ。お前、囮になれ!」


前 言 撤 回。




--------

【とりあえず補足】

冒頭のヘックス行動ですが、ヘックスの仕事はガンツの用心棒です。

なので①ガンツの安全を考えて突き飛ばす。②ガンツにとって重要人物であるオットーを身を挺して守る③ムサシ?護衛対象外です。

この順番で行動しています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る