第20話 そこで延長するなぁ!!

ロングレンジのライフルで狙われている中で囮をやれと言われたでゴザル!


「ぶっ殺すぞクソ用心棒!」


「とりあえず死ね」と言ってくる同行者に罵倒を返す。とはいえ、ヘックスも危険な状況だ。


遮蔽物に隠れているが、相手の武器の出力が高いために、攻撃は遮蔽物を貫通している。文字通り視線を遮る程度の意味しかなしていない。


「この壁はもう持たない。お前なら耐えられるだろ!」

「馬鹿いえ。向こうまでどれだけあって、どれだけ耐えなきゃならないと思っているんだ」


五百メートル以上先にいる敵の弾を切り払いながら正面から進んで、相手を切り殺すなんて不可能だ。何とか凌いで近づいても向こうは逃げる。


オレの「切り払い」は超能力でも概念的なものでも100%成功する事が定められたシステムではない。あくまで技術だ。体力的な問題や、運的な要素で失敗することもある。


それに、オレが耐えたところで、オットー達がこの場所に釘付けになるのは変わらない。


オレを囮にして、彼らが移動しようとしても、オレを無視してそっちを狙うだけだ。怪我をしているオットーは素早く移動することは難しい。狙撃の的でしかない。


そして、射程が違う以上、こちらがどれだけブラスターを撃っても意味はない。



「ムサシ。二十秒だ。それだけでいい。こっちで仕留める」

「…方法があるんだな」


チュイン!


二発目がヘックス達の隠れる遮蔽物を貫通する。穴が開いた場所はヘックスのすぐ脇。ほんの数センチずれたら命中していただろう。


バトルスーツが熱線に耐性のある装甲を使っているのだとしても、相手は高出力のロングレンジライフルだ。その威力は、ブラスターピストルとは段違いである。


「ある!」


そんな状態でも、ヘックスは力強くうなずいた。


「二十秒だぞ。ヘックス」


そう言って、オレは通路に飛び出す。


「…三十秒は絶対にかからないさ」

「そこで延長するなぁ!!」


そして、その直後の延長発言を罵倒する。


と言っても、数百メートル先の相手の攻撃の弾道を予測するのは至難の業だ。

普通なら、左右にジグザグに移動しつつ、敵の射線から避けようとするだろう。だが、横移動すれば自分の視線もぶれる。遠くの敵の動きを見切る事ができなくなる。


なので、まっすぐ進む。それも全力移動はできない。せいぜい早足程度だ。


チュイン!


頭に飛んできた熱線を剣で切り払う。


落ち着け、相手に集中するんだ。意識と体を連動させろ。意識せずに体を動かせ。

攻撃してくる相手に全神経を集中させつつ前に出る。

歩調を乱すな。一定のリズムで体を揺らさずに前に…


チュイン!


今度は心臓を狙ってきた。これも剣で切り払う。


呼吸を乱すな。細かく呼吸をしろ。

呼吸による上半身の揺れを減らし、視点を揺らさないように歩く。

早く進むことを意識するな。歩幅は短く安定させる。


チュイン!


今度も体。その弾道に剣を滑りこませる。


あせるな。れるな。足は持ち上げず、滑らすように前に。体の移動による揺れは腰でバランスを取る。左右のずれは極力小さくさせて前に。


次の攻撃は…




ズキューン!


相手の射線に剣を滑りこませようとした瞬間、背後から熱線が飛び相手の頭を貫く。

振り返ると、遮蔽物から立ち上がって、銃を向けるヘックスがいた。


宣言通りに、ちゃんと仕留める方法はあったらしい。それを見た、ガンツのとっつぁんが、オットー組合長に駆け寄って支えると、通路を横切りその先へ。

オレも合流するべく戻る。


ヘックスは周囲を警戒しつつ、組合員の部下たちにも合図を送り先に行かせている。



ヘックスに近づいて、目についたのが持っている銃だ。大きめのブラスターピストルだったはずなのに、ロングバレルと簡易ストックが取り付けられている。


それを取り付けるために20秒を必要としたというわけだ。だが、ブラスターのエネルギー変換率は決まっている。ストックやバレルをつけても射程が伸びる事はない。

それはつまり…


「開拓銃?」


ヘックスの持つ銃を見て珍しさから言葉がこぼれる。


開拓銃。別名『開拓者の銃』。武器としては万能銃という分類になる。


通常のブラスター兵器は、エネルギーパックからエネルギーを変換して熱線を放つ。変換効率は銃によって決まっており、それによって熱線の威力や有効射程距離や弾数が決まる。


開拓銃の特徴は、この変換率を調整することができるのだ。

通常のブラスターピストルとして使うこともできれば、連射速度を上げてマシンピストルに、あるいは出力を上げてライフル銃のようにして使うことができるまさに万能タイプの銃だ。


宇宙開拓時代に、この銃一本で未開地の様々な状況に対応することを目的として作られた。多目的銃。


とはいえ、現代兵器として使うには、あくまでもキワ物だ。

普通のブラスターピストルとして使うには大きすぎる上に重すぎる。マシンピストルとして使うには冷却能力が低く発熱して威力が半減する。ライフル銃として使うには命中率が悪いという、それぞれの用途でそれぞれの銃に劣るのである。


使えないわけではないが、他の銃のほうが良い。そんなマイナーな武器である。


一応、環境変化に強いという特性もある。重力や気候で変動する弾道を、銃の出力を微調整することで対応できるという点で優れている。


まあ、普通にドンパチするうえでは必要のない機能だ。


「変わった武器を使っているんだな」

「お前にだけは言われたくないよ」


軽い皮肉に、即座に言い返される。

大きなお世話である。


「おい。命の恩人であるオレに何か言うことはないのか?」


お前の無茶な要求にちゃんと答えたんだぞ。

オレの言葉に、こっちを向く。

そして、


「なんだ。飴ちゃんでも欲しかったか?」


オレの正当な要求に対する答えがこれだ。さすがに言葉に詰まる。


すると、オレを置いてヘックスもとっつぁん達の後を追って行ってしまう。

ヘルメットで表情は見えなかったが、絶対笑ってたぞアイツ。


「ジーザス…」


口をへの字に曲げて、取り残されないようにみんなの後を追った。



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補足

主人公が戻るまで殿しんがりと周囲の警戒を続けてくれているヘックス。

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