第18話 コレはオレの仕事が増えるやつだ

端末の表示画面と、目の前にある壁とを見比べて、とっつぁんがコンコンと壁を叩く。


「ほれ。ソードマスター。頼むわ」

「なんか、オレだけコキ使われてねぇか?」

「さっさとやれ囚人プリズナー

「うるせー!ちゃんとそっちを警戒してろ用心棒バウンサー


最後尾で後ろの警戒をするヘックスに悪態を返して、剣を構える。


「ハッ!」


気合いの声とともに一閃。そのまま切り返し、さらに切る。


キキン!…ガコン


三角に切り取られた壁が倒れ向こう側の通路が見えた。


これで本日3枚目になる隔壁斬りだが、ちゃんと力を貯めて刃筋を整えているので、ヨレもしなければ刃こぼれ一つしない。

今まで使っていた剣だと、さすがにこんなに便利には使えない。


「ソイツの刃はクロム合金製だ。隔壁の古びた合金スティールなんぞ目じゃねぇよ」

「そもそも剣は、壁を切るようには出来てねぇよ」

「おめぇならできるさ。ソードマスター」

「へいへい」


とっつぁんからの称賛を半分照れながら流す。




OSSのステーションは、正規の建造物ではない。

開拓時代に作られて放棄された物を再利用したり、大型船のスクラップを持ってきてそれを改修増築したりと、その形式は様々だ。


当然だが、それらステーションの維持管理というのは計画されたものではない。

問題が発生したらとりあえず対処しただけという「臭い物には蓋」をしただけというものや、そこに(勝手に)住み着いた住人が、勝手に増改築したりと無秩序に変わっていく。


この星域で長年非合法な商売をしていたとっつぁんではあるが、そんな混沌としたOSSステーションの詳細まで知っているわけではない。昔の記憶や得られた情報からある程度のステーションの見取り図を準備していたが、その信頼性は高くなかった。


地図にはない通路や壁なんてまだ優しいほうで、区画ごと入れ替えられている場所などもある。


案内標識?

ハハハ。矢印付きの案内板が逆さまについている段階で信頼しちゃいけないよ。




このステーションに息子のオットー組合長を探しに来たガンツのとっつぁんだったが、地図が半分くらい役に立たず。なんとか同じ区画には来たものの、合流する道がさっぱりわからないという状況だ。


そんな状況で、とっつぁんは最後の手段に出た。


壁を壊して進むという力技だ。

まあ、普通はこんなことしようとは考えないよな。


力技で相手の意表を突きつつ最短距離を進んでいるからと言って、ここは敵対勢力のステーションである。ましてや、抗争相手のトップである組合長が相手だ。近づけば近づくほど、その危険度は増す。




「まだか!」

「まてまて、そう急かすな」


手元の端末と場所を何度も確認しながらとっつぁんが返事をする。


後ろでは、急かすヘックスが通路の角からブラスターを撃って反撃しているが、相手のほうが数が多いのか、その声には余裕はない。


そして、この通路の先は行き止まり。つまり逃げ道はない。


「ここだ。ソードマスター」

「ハイハイ…っと」


隔壁を切るのもこれだけ続けばなれるもので、三度剣を翻して壁を切り裂く。


切り替えして瞬時に切るのではなく、一閃を3回繰り返すことで、楽にきれいに切り裂くことができる。早さじゃない、呼吸というか拍子タイミングが重要なんだな。


まあ、慣れたところで何の役にも立たないんだけどな。

就職で「剣で隔壁を切れます」とアピールしても面接官に「工具を使ってください」と言われて終わりだろう。


そんなどうでもいいことを考えていると、ガンツのとっつぁんはオレの明けた穴から中に入る。


「オットー無事か」

「親父。本当に来たのか」


中で声がする。どうやら目的の相手を見つけたらしい。


「用心棒。こっちだ!」


後ろで追っ手を足止めしているヘックスに一声かけて、オレも続いて部屋の中へ入った。


どうも元々倉庫のような場所だったらしい。


中には組合長の他に、手下と思われるバトルスーツを着た部下が三人。まあ、パーツがチグハグだったり、つぎはぎした部分が目立つスーツである段階で、その程度はお察しだ。


そういう意味では、きちんとセットで手入れもされたヘックスのスーツは感心する。

どうやらオットー組合長はケガをしていたらしく、ガンツのとっつぁんの持ってきた医療パックで応急手当を始める。


オレの背負っている緊急パックよりは、治療効果のある医療セットだ。


「組合長。まずいです。奴らもこっちに気が付いたようです」

「悪いな。目を引いてしまったか」

「いいや。どうせ虱潰しにされていたんだ時間の問題だったよ」


どうやら、オレ達のせいで居場所がばれたらしい。部下たちが外に向かってブラスターを撃ち銃撃戦を始める。


ガンツのとっつぁんに手を借りて、オットー組合長がゆっくりと立ち上がる。医療パックにある折りたたみ式の松葉杖を使って、とりあえず歩いて移動できる程度の治療はできたらしい。


…部外者ですが、手持ちぶさたです。


いや、部下の人たちは、向かってくる正面の敵を攻撃しているし、ヘックスはオレ達が入って来た穴から、通路にいる敵に対処している。

オレ?剣しか持ってないのに銃撃戦で何をしろと?


壁に背を預けて、次の行動に移るまで眺める事にする。


「ヘックス!この端末で先導を頼む。このE-762のエリアに向かってくれ」

「…」


息子のオットーに肩を貸したとっつぁんが、持っていた端末をヘックスに差し出す。

外を警戒していたヘックスは、警戒をやめて端末を受け取ると、そこの地図を確認する。


数秒、その地図を見るとヘックスはこっちを向いて、背後の壁に顎をしゃくる。


「そこの壁に道を作れ囚人」


…あ、コレはオレの仕事が増えるやつだ。

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