第73話 理由があってここにいるという事だ

人っこ一人いないシャッター街で、明らかに場違いな風体の男が二人連れで、こちらに向かってきています。


これに対するオレ達の対応は決まっている。

逃げる事だ。

因縁をつけてきたチンピラなら、面倒ごとは避けるべきだし、治安組織の職員であるとしたら、もっとやばい。オレの立場は密入国者で、なおかつ未成年を連れた状態だ。どうみても善良な一市民と認識されることはない。


なんで、オレの善意はこうも報われないのでしょうか?


まだ二口しか食べていないホットスナックと、空になった缶を手に隣を見ると、同じように異常に気が付いたビアンカが、まだ少し大きめに残ったホットスナックを無理やり口の中に押し込めて準備オッケイとサムズアップをこちらに向ける。

さすが、開拓民。子供でも逞しい。


「よっ」


手に持った空き缶を反対側の通路にあるごみ箱へゆるく放り投げる。

一瞬、彼らの視線が空き缶に向いた瞬間に、食べ差しのホットスナックを捨てて、ビアンカを小脇に抱えて走り出した。


「待ちやがれ!」


後ろから野太い静止の声が上がる。

そう言われて誰が待ちますかってんだよ!




とはいえ、おっちゃんの体力は、おっちゃんです。

ちょっと格好つけてビアンカを小脇に抱えたけど、子供って重いね。そんなに早く走れるわけもなく、その上すぐに息が上がる。


とはいえ、ビアンカを抱えたのはただの思い付きではない。


「ビアンカ。足止めを頼んだ!」

「う、うん」


抱えられた状態でビアンカは腰のホルスターからブラスター銃を抜く。ビアンカの手に合わせた小型銃だ。

だが、ブラスターはブラスター。熱線は熱線だ。


ピチュン!

「うわっ!」


ブラスターの発射音と共に、野太い男の悲鳴が上がる。

抱えながら走っている振動で、照準など付けられないから命中するとは思っていない。だが、向こうだって死にたくはない。まぐれ当たりでも当たったら死ぬのだ。


幸か不幸かここは道路で、身を隠して追いかけられるほど遮蔽物は多くない。

要するに、相手の足が止まればそれで充分だ。


逃げた道の先を曲がれば大通りだ。休暇中の軍人が闊歩するステーションである。治安組織だって機能している。あの人相風体の男だ。大通りまで来て派手な事はできまい。


「…おう。ジーザス」


曲がり角の先には、十字路があり、その向こうには大通りが見える。

でも、その手前の通路の出口に、荒事専門の男が大通りから入ってこないように、封鎖しているところだ。


「頭低くしていろ」


曲がり角に飛び込んできたオレ達を見て男が驚いている隙に、ビアンカを抱えている右手ではなく、左手で左腰に差した剣を引き抜く。コツは、腰をひねる方向です。


ここはシャッター通りだ。道の左右にはシャッターを閉じた商店が軒を連ねている。

なれない左手一本でも、隔壁よりも薄いシャッター程度を切り裂けないわけがない。


シャラン!


中に人がいたら悲鳴上げられたりして面倒だけど、あいにく住民は避難した後の店舗だ。店の中は荷物の整理もそこそこに閑散としている。

警報装置でもあるかと思ったが、けたたましく鳴ってくれるパトランプらしきものは見当たらない。まあ、警備システムに通報が行っているかもしれないが、ここは強行しよう。

室内で目についた階段を上がり、二階に上がったところでビアンカを下ろすと、剣を両手で握って振り上げる。


「ふっ!」

ゴトン


そして、階段の途中を一部を手すりごと乱雑に切り落とす。これで上に登るのに手間取るだろう。


「行くぞ。大通りに出る」

「うん」


そのまま二階の奥の部屋の鍵の掛かってない扉を開ける。私用スペースで、最低限の荷物を持って出て行ったのだろう。乱れたままの部屋の奥に進み、再び壁を剣で切り裂く。

ここは、密集した商店街だ。壁の向こうは別の店舗だ。だが気にせず壁を切り取って、隣の家屋へ浸入する。


そのまま、目についた部屋を次々に開けていく。

目指すは窓のある奥の部屋。


そして、見つけた窓のロックを外して開ける。

狙い通り、窓の向こうは別の路地だ。顔を出して左右を見るが、道に不審な男どころか人っ子一人いない。


ビアンカを抱えて二階から飛び降りる。

降りた通路の一方向はネオンの光があふれている。大通りだろう。


武器をしまいつつ、小走りで大通りへ向かう。

大通りには通行人がいる。その中には休憩中の共和国の兵士だっている。その中に紛れ込めばオレ達を追う事はできなくなるはずだ。


大通り沿いのターミナルに向かう。「こんな危険なところにいられるか。オレはさっさと自分の船に戻るぞ」という話だ。

襲われる心当たりはないではないが、面倒ごとは避けるに限る。

悠長に避難民の情報を集めるわけにはいかなくなったが、最低限の情報は手に入れたので良しとしよう。



途中で通信ボックスから、港に停泊しているチャプター号に通信を繋げ、ヘックス達に襲われた事とすぐに出港する事を伝える

通信を終えてホームに上がると、ちょうどモノレールが到着した所だ。

ビアンカと二人で足早に乗り込む。



さて、モノレールに乗って分かった事だが、どうやらあの男達は、突発的にオレ達を狙ったわけではなく、理由があっての計画的な犯行だったらしい。


そう判明した理由は簡単だ。乗り込んだモノレールに客がいなかった。

まあ、戦時中の日中時間帯の車両だ。乗客は元々少ないのだろう。それでも乗客ゼロというのは不自然だ。


いや、乗客はいた。

誰もいない車両のど真ん中に一人の男が立っていた。

不自然であることに変わりはなかった。



黒い光沢のあるコートにツバの付いた黒い帽子。

首までコートの襟を閉めてまで、肌をさらしていない理由はわかる。

帽子の下から見える白い人工皮膚。袖からのぞく金属の手。

おそらく全身義体のサイボーグ。


そんな機械人間が、宇宙船ドック行きのモノレールの車両を独占するわけがない。理由があってここにいるという事だ。

そして、感情の読めないサイバーアイはこっちをロックオンしたままだ。


プシュー

モノレールの自動ドアが閉まりゆっくりと動き出す。


「おう。ジーザス」


つまりその理由は、乗り込んできたオレ達である。そういう事らしい。




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サイボーグのイメージはバイオ2のタイラントスタイル。

なお、ロケットランチャーはありません。

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